カルチャー

【#3】ごんぎつね

2021年8月25日

 「ごんぎつね」(偕成社)

 小学生の国語の教科書にも載っている、童話作家である新美南吉の名作だ。
というわけでこの作品は、どちらかというと童話に挿絵がついているという絵本のタイプだ。黒井健さんの透き通るような絵は、この童話にピタリとハマっている。

 よくタヌキは、古典落語や昔話でも哀愁のあるおっちょこちょい役としてよく登場するが、キツネはだいたい悪役、こざかしい奴、悪どい奴、むしろタヌキをいじめるやつとして出てくる。しかし作者の新美南吉の描くキツネは、哀愁が溢れている。彼の描く、キツネの”ごん”は一筋縄ではいかない。彼の繊細の物語に、先ほどのキツネの固定概念を忘れてしまうくらい引き込まれる。表面上のストーリーよりも、ごんのリアルな葛藤をよくよく読み込むと、ものすごく面白い。

 だが正直、僕はこの作品に昔はそれほど惹かれなかった。なんだか教訓めいている気がしたし、単純に面白い、とは感じなかった。しかし、最近僕が30代にさしかかって、急に自分の中にヒットしたのだ。歳を経るごとに感じ方が変わる本であるのは間違いなさそうだ。

 名作ゆえんの底力を感じさせる一作。 

プロフィール

長田真作

ながた・しんさく|1989年、広島県生まれ。絵本作家。2016年に『あおいカエル』(文・石井裕也/リトル・モア)でデビューし、現在までに30冊以上の作品を手掛けてきた。去年8月、『ほんとうの星』と『そらごとの月』を2冊同時刊行し、話題を集めた。