カルチャー

[#1] シャーロック・ホームズ・ラブストーリー

執筆:小林エリカ

2021年7月15日

私が生まれるよりも少し前、我が父は思い立ち、医者をやめてシャーロック・ホームズの翻訳家になることを決めました。そうです、あの英国のコナン・ドイルが記した名探偵シリーズです。もともとは銀行員だった母もその翻訳に駆り出され、一家総出の大事業となりました。

かくして、私を含む四人姉妹の娘たちにとって、霧のロンドンで起きる殺人事件やらなにやらは、たいそう身近なものとなりました。ぶらさがる紐を見れば即座にそれを毒蛇だと判断し、ボール箱を開ければそこには切り取られた耳が入っているのが当然、といった具合です。

かくして、私は練馬区ヴィクトリア町育ちを自負しています。
思えば我が原点は、ホームズにあり。

長らく封印していたこの過去を、ついに「最後の挨拶 His Last Bow」(講談社)という小説に書いてみました。

というわけで、これから四回にわたり、愛すべき我が家のホームズ物語をお伝えしたいと思います。

どうぞよろしくおねがいいたします。

当然のごとくシャーロック・ホームズのコスプレをする我が幼少期

プロフィール

小林エリカ

こばやし・えりか|1978年、東京都生まれ。作家・マンガ家。練馬区ヴィクトリア町育ち。主な著書に『マダム・キュリーと朝食を』、『トリニティ、トリニティ、トリニティ』(ともに集英社)、『光の子ども1、2、3』(リトルモア)等がある。2021年7月にはシャーロキアンの父を書いた『最後の挨拶His Last Bow』(講談社)を発売。