ライフスタイル

優雅なひとときまでスワイプしてしまわないために。

お部屋のマイナーリーガーズ Vol.4:マガジンラック

photo: Kanta Torihata
text: Fuya Uto
edit: Kosuke Ide

なくても(ぜんぜん)困らないけれど、あったら毎日の生活が(かなり)楽しくなる。騒がず目立たず、忘れられてる、マイナーだけどイカすヤツら。
そんなお部屋の「名脇役」たちについて改めて目を向け、レコメンドする連載企画。マイナーリーガーズの歌を聴け。

2025年11月23日

 何度考えてみても、「スマホ」にどうも愛着が湧かない。ツルツルした液晶画面、カメラの小型レンズとフラッシュライトはセットで、どれも同じ片手に収まる長方形のフォルム……友人も上司も99%が持つその“最適解”の姿カタチに、とにかく個性を感じにくいからではないだろうか。間違いなく便利ではあるが、その重さを覚えた手や、デニムの後ろポケットに付いたスマホ型のアタリを見ると、現代病のようで少々げんなりする。長時間触っていた日には何だか1日を無駄にしたような後ろめたさすら感じる。

 しかし、一方で「情報を得る」という目的は同じはずなのに、雑誌や本からだと妙に満足感があるから不思議だ。思うに、ソファや椅子でくつろぎながらパラパラと眺めているとき、それはただ情報を追っているのではないのかもしれない。デジタル画面とは違う自然な印刷の滲みを眺める感覚や、指先に伝わる紙の質感、インクのかすかな匂いなどが五感を刺激し、ゆったりとした豊かな時間を生むのではないか。

 今回取りあげる「マガジンラック」は、きっとそんな読書の時間を豊かにするための良き隣人として生まれたのだろう。ときどきめくりたくなる一冊、読んでいる途中の雑誌など「今そばに置いときたいもの」をまとめる家具。一度、本棚に収納してしまうと、どこに仕舞ったかわからなくなったり、再び取り出すのが面倒になったりするから。しかもデザインもクールなものが多く、素材も布、金属、アクリル、木材などさまざま。だからこそ、インテリアとしても置いておきたくなる十分な魅力があるのだ。本と併せて気分でレイアウトを遊べるのもいい。

’60年代のオランダ製のマガジンラック/幾何学的なフォルムが目を引く同国らしいヴィンテージ。雑誌が左右に置けるシンメトリーなデザインも見事。面の部分は鉄のパンチングで、表紙が少し透けるのがいい。¥66,000(FILM☎︎03・5734・1011)

〈アルテック〉のマガジンラック カント/バーチ材の成形合板を曲げただけのミニマルな造りが特徴。フィンランド語で“持ち運ぶ”を意味する名の通り、持ち手となる穴が設けられ、実際かなり移動しやすい。¥34,100(SEMPRE☎︎03・6407・9061)

 例えば、’60年代に作られたオランダ製のヴィンテージだったり、20年以上前から現役で販売されている〈アルテック〉のロングセラーだったり。そんな過去の名作に負けずとも劣らない新作だってある。ポップな配色のアクリル製の〈アート・オブ・ブラック〉やウッドクラフトな〈石巻工房〉のそれらはシンプルなデザインなのに既視感のない新鮮な佇まいで、見つけたときは心が弾んだ。

〈ART OF BLACK〉のアクリル製マガジンラック/雑誌の表紙をきちんとディスプレイする大きめのマガジンラックは木材が多い印象だけど、アクリル製というところに惹かれる。雑誌のみならず、一番上の段は水平だから小物も置ける。¥39,600(ART OF BLACK

ISE MAGAZINE RACK/デザイナーの林裕輔と安西葉子が主宰する〈ドリルデザイン〉と、宮城県石巻市に工房を構える〈石巻工房〉の共作「ISE MAGAZINE RACK」。中央のスリットに紐を通すことで、処分予定の紙ものも簡単に縛ることができる仕様。¥45,100(石巻工房☎︎0225・25・4839)

 スツールと兼用の〈アンブラ〉にもそそられる。なんせ「雑誌を置く」という至ってシンプルな目的を達成できていればOKなのだから、そのデザインはバラエティに富むわけで。印刷物の需要が減少し、雑誌の存在感が薄まってきているこの現代にも新たなマガジンラックが生まれ続けているのは、やっぱりモノとしての捨てがたい魅力があるからじゃないか。彼らこそ、“あったら毎日の生活が(かなり)楽しくなる”マイナーリーガーズのクリーンアップ筆頭候補なのだ。

MAGINO Stool/13mm厚のアクリルを曲線で構成し、スツールの脚部をマガジンラックとして機能させた「MAGINO Stool」。デザインを手掛けたのは、ニューヨークを拠点に活動するインダストリアルデザイナーのカリム・ラシッド。¥39,800(LAND Lifestyle Shop☎︎042・349・6955)

 それはひとえに、スマホをスワイプしては味わえない優雅なひとときを生み出してくれるからに違いない。手のひらに収まる例の光も、遠い誰かの声や無数の景色を映し出すけど、そこに読み込まれた物の記憶が宿ることは少ない。いつの日か、その場所がなんとも味気ないスマホスタンドへ取って代わられないことを願って。Magazine Spirit, forever!