カルチャー
「人の気持ちに触れることができるのは、すごくクールなこと。」
USオルタナ最前線を駆け抜ける、Horsegirlの今。
photo: Hiroshi Nakamura
text: Miu Nakamura
edit: Ryoma Uchida
2025年10月28日
左からジジ・リースさん(ds)、ペネロペ・ローウェンスタインさん(g/vo)、ノラ・チェンさん(g/vo)
「さっきの取材で、何話してた?」とわきあいあいと確認し合うのは、シカゴ出身のスリーピース・ガールズバンド、Horsegirlの3人。メンバーそれぞれに取材が相次ぐ超過密スケジュールの中でも、そんな等身大な姿が垣間見えた。今年リリースされたセカンドアルバム『Phonetics On and On』も、そんな彼女たちのナチュラルな魅力が詰まっている名盤だ。先日の初来日公演では、東京、大阪、京都で開催された4公演があっという間にソールドアウト。東京公演2日目、ギター/ヴォーカルを担当するノラ・チェンさんに、好きな音楽やニューヨークでの大学生活、そしてHorsegirlの今とこれからについて、気になることをたくさん聞いてみた。お気に入りの楽曲もたくさん紹介してくれているから、ぜひチェックしてみて〜。
↓アルバムを聴きながらどうぞ。↓
曲作りにも影響した「二重生活」。
ーー日本へようこそ。東京土産を持ってきました! 初来日とのことですが、もう訪れた場所はありますか?
こんにちは。ありがとうございます〜。ダルマのおもちゃなんてあるんですね、可愛い! ツアー前の2日間はフリーだったので、下北沢で古着をみたり、代々木公園へ行ったりしました。アメリカでは見たことのない東京らしい自然がたくさんあって、すごく癒されました。
ーー昨日は日本公演初日でしたね。いかがでしたか?
お客さんが静かですごくびっくりしました! 私たちが活動しているニューヨークでは、お客さんがすごく騒がしいんです。演奏中や曲の合間でもずっと話ていたりして(笑)。アメリカで静かすぎると「もしかして気に入ってもらえてないのかな」って不安になるんですが、ここではむしろリスペクトを感じました。それから、会場に行ったらスタッフの方たちが全部準備をしてくれていたことも、すごく新鮮で。普段は重い機材を持ち上げるのも全部自分たちでやっていたので、ライブ前は普通に街を歩いたりできたのがすごくよかったです。そうやって普通に生活している感じで過ごすと、あまり緊張しなくて、リラックスしてライブに臨めました。
ーー緊張したときにすることはありますか?
ライブ前に緊張しているときは、テンションを上げてくれる音楽が聴きたくなります。ザ・ストロークスやカー・シート・ヘッドレストのような、私たちの世代がよく聴いていたような音楽で、ティーンエイジっぽい焦燥感があると、それが逆に気分を盛り上げてくれるんです。
逆に、ひとりでいて気持ちが不安定だったりするときは、心を落ち着けてくれる曲を聴きます。パセリ・サウンドっていうバンドの『Ease Yourself and Glide』(=身を委ねて、滑らかに)という曲は、タイトルからして落ち着ける感じですが、聴くと心が本当に静まります。
ーーちなみに、最近気になっている曲は?
今は、ボビー・ジェントリーっていうミシシッピ出身のカントリー・シンガーの『Reunion』って曲に完全にハマってます! 最初は手拍子とか指を鳴らす音だけで始まるんですが、そこにどんどんレイヤーが重なっていって、女性の声でリズミカルなフレーズが歌われて、同時にすごく不思議なメロディも出てきて……。童謡みたいな雰囲気もあるけど、とにかく展開が普通じゃないんです。ロックをやってる私たちとはジャンルが全然違うのに、曲作りのインスピレーションになる部分がたくさんある。曲がどうビルドアップされていくかがすごく明確で、新しいパートが入るたびにそれがちゃんと際立って聞こえるし、要素のひとつひとつにすごく意味があって。単体で聴いたらすごく奇妙なんだけど、全部を組み合わせると曲としてちゃんと成り立つ、そこがすごく面白いんです。
ーーツアーが続いていますが、移動中は3人で何をしているんですか?
本を読むことが多いです。移動の合間とか、映像を観るほどの時間ではないってときにちょうどよくて。むしろ、家にいるときよりツアー中の方が本を読むことが多いかもしれないです。
ーーノラさんは普段、どんな本を読むんですか?
ユーモアのある本が好きかな。あと、カート・ヴォネガットの本も。すごくアメリカ的な価値観を持った作家で、興味深いんです。それから、短い本を読むことも多いかな。コンパクトで短いけど印象に残る、そういう感じが好きです。曲にもそういうところが反映されているかも。
ツアー中は、みんなで本を回して読むこともよくあります。持ってる本がそんなに多くなかったから、みんなでシェアしたんです。この前のツアーではペネロペに、デンマークの詩人で小説家のインガー・クリステンスンの『Natalia’s Stories』っていう本を借りました。100ページもないくらいだったんだけど、遊び心があってとても印象的でした。
ーーニューヨーク大学への進学を機に拠点を移されましたね。普段は何をして遊んでいるんですか?
大都会に住んでいると、とにかく人と過ごすことが多いです。バーに行くこともあるし、家に友達を呼んでリビングでみんなで映画を観たりも。3人で住んでいるから、家で一緒に過ごすことは多くて、常に誰かと会話している感じです(笑)。でも、私はひとり時間も好きだから、自分とデートしてるみたいな感じで映画館に行ったりすることも結構ありますよ。
ーー生活の中で起きたことは、曲作りに活かされているんですか?
もちろん! ペネロペと私は二人とも大学に通っていて、私はちょうど卒業したところなんですが、今回の新しいアルバムを書いていたときは二人ともまだ学生だったんです。その二重生活みたいな感じが確実に曲作りにも影響してたと思います。それに、私はクリエイティブ・ライティングを専攻してて、文章を書くことをすごくやってたんです。曲作りも、他の文章を書くことも、結局は全部「書く」っていうことだから、自分を通して出てくるもの。やっぱりそこには確実に繋がりがあると思います。
ーー卒業した後は、シカゴへ戻ると聞きました。
以前は「学校を卒業したらすぐにシカゴに戻ろう」って言ってたんですけど、今はもう少しニューヨークにいたいなって3人で話していて。どんな場所に移っても、そこに馴染むにはある程度の時間がかかるし、最近ようやくニューヨークが「ホーム」って感じられるようになったんです。今はまだ、生まれ育った場所からは離れていたいなって。
ーー3人くらいの年齢の若者にとって、今のアメリカはどんな感じ?
すごく壮大な質問(笑)。アメリカにいると希望が持てないように感じるときもあるけど、同時にワクワクできることも常にあると思います。私たちの世代って、テクノロジーやSNSと一緒に育ってきた世代だから、その影響にすごく敏感じゃないですか。でも、少なくとも私の周りの友達を見てると「スマホから離れて、人や環境とつながり直そう」っていう動きがあって、それは私たちの世代ならではなんじゃないかと思うんです。だってこんなふうにインターネットと共に育った世代って、他にはいないから。だから実際に目の前にある現実にもっとちゃんと向き合っていけるかもしれないって考えると、実は結構楽しみだなって思います。
先のことは気にせず、思うがままに作り続けたHorsegirlの音。
ーー新作のアルバム『Phonetics On and On』では、多彩な楽器編成やより洗練されたミニマルなサウンドが印象的でした。どんなことを伝えたかったのですか?
今回は、ひとつひとつのパートにちゃんと意味があって、意図的に作られているっていうことを見せたかったんです。私たちは3人編成のバンドで、ステージで鳴っている音は全部この3人から出ている音。秘密の4人目がいるわけでもないし、バッキングトラックも使ってない。それがすごく面白いと思っていて。バンドって、大勢いなくても成立するんだっていうのを伝えたかったんです。
ーー『2468』には少し変わったヴァイオリンのサウンドや、子どもの数え歌的な要素もあり、何だか3人のいたずら心のようなものを感じます。
そのヴァイオリン、実はレコーディングの時に私が初めて演奏したものなんです(笑)。
ーーもともと予定にはなかったんですか?
というか、そもそもヴァイオリンを弾いたことすらなくて! この曲は、唯一スタジオに入る前には存在していなかったものなんです。ギターのパートと、途中で拍子が切り替わる部分、最後に同じコードで終わる構成だけは決まってたけど、それ以外は全部埋めていかなきゃいけなくて。だから、もちろんあの「2・4・6・8」っていうボーカルの部分も、そのときはまだなかったんですよ。でも、プロデューサーのケイト・ル・ボンが「とりあえず向こうで何か試してみたら?」って言ってくれたのがきっかけで、自然とああいうちょっと変な、子どもの数え歌みたいな感じのメロディが出てきて。ヴァイオリンも誰も弾いたことなかったけど、たまたまスタジオに置いてあって「なんか必要かも」って思って使ったんです。結局私がほとんどのパートを弾いたんですが、チューニングも全然合ってないんですよ。そもそも弾けないから気にならなかったけど(笑)。
ーー即興から生まれる偶然性が、曲に独特のユニークさをもたらしたんですね。
子どものころに歌ったり遊んだりする歌って、何も考えずに自然に出てくるものだけど、まさにその感覚で生まれた曲なんです。曲に合いそうな音を探しながら適当に弾いて、それを重ねていったら、あたかも大勢で演奏してるみたいな感じになったんです。
ーーヴェルヴェット・アンダーグラウンドなどのサウンドに影響を受けたと聞きましたが、逆に同世代で共演してみたいアーティストはいますか?
面白い質問ですね。同世代で知ってたり、リスペクトしてるアーティストって、ほとんどがもう友達だったり一緒に演奏したことがある人たちで。だから今すぐ「この人!」っていうのはあんまり思いつかないです。だけど、これまで共演してきた同世代のバンドはどちらかというとロック寄りの人たちが多かったから、もっと実験的なアーティストと一緒にやってみるのもすごく面白いんじゃないかなって。バンドっていう形にとらわれないで、オーケストラっぽい編成だったり、曲というより作曲作品みたいな構造を持ってる音楽とか。そういう試みにはとても興味があります。
ーーバンドを開始した2019年は、まだみなさん高校に通っていましたよね。活動も長くなってきましたが、制作方法や音楽に対する考えに変化はありますか?
高校の頃に比べると、バンドに対する考え方はだいぶ変わったと思います。あの頃は先のことなんて考えてなくて。大学に入ったら自然と辞めるんだろうなって思ってたんです。でも、思いがけずレーベルから声をかけてもらい、今がある。だから、最初から先のことを期待しすぎない方がいいんだろうなって(笑)。だから、自分が思うようにアートを作り続ける。結局は、これが一番大事なんだと思います。
ーー継続することで、新しい何かが生まれるんですね。
そうです。それに、曲作りに対する意識もすごく変わりました。昔はただうるさい音を出すことに夢中だったけど、今は一つの曲としてちゃんとまとまりがあって、いろんなパートがある。聴いたときに“完成された感じ”がある音楽を作りたいって思うようになったんです。リリックも、前は響きやイメージを重視して言葉を選んでたけど、今はもっと感情を伝えたり、ストーリーを描いたりすることに意識が向いています。
ーー確かに、シンプルながらも、心の奥底に響くものがあります。
もっとパーソナルで共感できるものになったんじゃないかと。実際に「自分のこの時期に、この曲が響いた」って言ってくれる人が何人かいて、それは1stのときにはなかった反応でした。狙ってそうしたわけじゃなくて、自分の実感をもとに書いたからこそ、同じような状況にいる人に自然と響いたんだと思います。音そのものに感動してもらえるのももちろん嬉しいけど、それ以上に人の気持ちに触れることができるのは、すごくクールなことじゃないですか。
ーー次の作品を作る上で挑戦してみたいことは?
もうちょっと実験的な方向に踏み込んでみたいと思っています。今作にはストレートなポップソングっぽい曲も入ってて、そういう曲も大好きだし書くのも楽しいんですが、『Julie』みたいに最初は普通のポップソングとして書かれた曲を、スタジオでギターパートをあえて抜いたりして全然違う形にしていくのがすごく面白くて。結果的に元のバージョンよりずっと実験的な曲になったし、そのプロセス自体がすごく刺激的で、もっとその領域に踏み込みたいと思っています。
ーー最後に、これからさらにバンドとして成熟していく中で、どんなふうにHorsegirlを作っていきたいですか?
やっぱり、どんなバンドもそう思うように、サステナブルなバンドにしていきたいです。私たちは学校に通っていたので、例えばツアーのチャンスをもらった瞬間から4か月くらいずっとツアーに出て、ひたすら外に出っぱなしになったり、みたいな活動ができなくて。でもそれが逆によかったと思います。
シカゴ出身のバンドのウィルコと一緒にライブをしたときに気づいたんですが、彼らはもう何十年もバンドとしてキャリアを持っているわけだけど、それぞれに家庭がありながらもちゃんと活動を続けていて。常にツアーばかりっていうわけじゃなくて、普段の生活の中に音楽活動をうまく取り入れてるんです。そういうふうに、音楽にちゃんと向き合いつつ、自分たちの生活も大事にして続けていけるバンドになりたいって思います。
インフォメーション
Horsegirl
ホースガール|2019年にシカゴにて結成した、ノラ・チェン(g / vo)、ペネロペ・ローウェンスタイン(g / vo)、ジジ・リース(ds)によるロックバンド。メンバー全員が高校在学中に、名門レーベル〈Matador Records〉と契約を交わし、2022年のデビューアルバム『Versions of Modern Performance』がロングヒットを記録。2025年2月には、待望のニュー・アルバム『Phonetics On and On』をリリースした。
Phonetics On and On
label: Beat Records / Matador Records
artist: Horsegirl
release date: Out now
TRACKLISTING
01. Where’d You Go?
02. Rock City
03. In Twos
04. 2468
05. Well I Know You’re Shy
06. Julie
07. Switch Over
08. Information Content
09. Frontrunner
10. Sport Meets Sound
11. I Can’t Stand To See You
12. Ramona Song (Bonus Track for Japan)
Official Website
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=14538
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