TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#1】国立奥多摩美術館について

執筆:佐塚真啓

2025年10月10日

「国立」でも「奥多摩」でも「美術館」でもない「国立奥多摩美術館」について。

2009年に美術大学を卒業し、2011年に東京都の西のはずれに位置する青梅市に移住して仲間とアトリエとして使える場所を探していた。そんななか植林された木々が立ち並ぶ山間に、もともと製材所だったボロボロの建物を見つけた。足で床を強く踏みこむと抜けてしまうような所が無数にあり、ペラペラな波板の壁や屋根も、経年劣化で穴だらけになっていた。

林業の発展とともに即興的な増改築を繰り返し、林業の衰退とともに朽ち果てつつある物件だった。そこを仲間と借りることにした。そして、ここをアトリエとして作品を作るだけの場所ではなく、なにか面白いことがおきる場所にしたいよねと話していた。そんな「なにかしたいよね!」と言いつつ、2012年春、僕は1ヶ月間のネパール旅行に出かけてしまった。そして、帰国してみると、その「なにかやろう」が、『国立奥多摩美術館~青梅ゆかりの名宝展~』というタイトルの展覧会をやることになっていて、なぜか僕が、その美術館の館長という設定になっていた。訳がわからないながらも、みんなが決めたことならばやってみよう!となり、最初ということで気合を入れて展覧会タイトルである『国立奥多摩美術館』という大きな文字の看板を作って入口の扉に貼り付けた。2012年11月におこなった7日間の展覧会は、アクセスの悪い山奥の会場にも関わらず300人以上の方々にお越しいただき、こんな山中でも、ちゃんと情報を発信すれば見に来ていただける、という謎の手ごたえを感じつつ無事に終わった。そして、展覧会が終わった時に、入口の看板を取り外せばよかったのだが、めんどくさくて、そのままにしてしまっていた。

展覧会が終わって少したったころ、アトリエの周辺を調べようとGoogleマップを見ていると、なぜか僕らのアトリエが「国立奥多摩美術館」としてマッピングされていた。少し驚いたが、訂正するのもめんどくさいし面白いから「ま、いっか!」ということで、僕らのアトリエは、正式な日本国の「国立」でもない、青梅市にあるので「奥多摩」でもない、温度湿度が管理された「美術館」でもない、「国立奥多摩美術館」として2012年に地図上に誕生した。当然、ちゃんとした美術館ではないので、常時営業はしていない。不定期で展覧会やイベントを企画し、その時だけ開館する。SNSで情報を発信しています。ぜひフォローしてみてください。そして開館する際には、ぜひ遊びにきてください!

プロフィール

佐塚真啓

さつか・まさひろ|美術家。1985年静岡県生まれ。丑年。おうし座。長男。A型。右利き。2009年武蔵野美術大学卒業。卒業後からは民具などの博物館資料を図化する事を始める。2011年青梅市に移住。2012年友人と共に「国立奥多摩美術館」を企画。「美術」という言葉が色々な物事を考えるときのキーワードになっている。2018年から「株式会社佐塚商事 奥多摩美術研究所」を主宰。2025年から「絵かきの里」を企画。座右の銘は、「来た時よりも美しく」。1日8時間の睡眠を心掛けている。冬はガタガタ震え、夏はダラダラ汗をかき過ごしている。

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国立奥多摩美術館
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