TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム
【#3】BMCへ行って、共同体について考えた
執筆:永原康史
2025年7月29日
第3話は「コミュニティとメディア」について話してみたい。これには世界各地で花ひらいた芸術運動が大きく関係している。
BMC設立の1933年は、第一次大戦と第二次大戦のあいだで、いわゆる戦間期にあたる。戦争の後遺症と世界的な大不況のなか、ファシズムが芽吹きはじめる一方で、グレート・ギャツビーに見られるような馬鹿騒ぎをしていた時代でもある。
この時期、ヨーロッパではたくさんの前衛芸術運動が起こっていた。フランスのダダイズム、シュールレアリスム、イタリアの未来派、ロシア構成主義……。それらはそれぞれ「芸術共同体」と言えるものだが、彼らはその表明や展開のために小さな新聞や冊子をたくさんつくった。メディアがコミュニティをかたちづくることを知っていたのだろう。オランダのデ・ステイルなどは同名の雑誌を定期刊行している。
もっとも、第一次大戦前からこの傾向はあった。19世紀末のアーツ&クラフツ運動でも同人誌をつくっていたし、雑誌を通じて新しいスタイルを広めたアールヌーボーも然り。日本では白樺派の『白樺』か。こちらは文学だが。
文学といえば、SF小説のファンZineが盛んになったのが、やはり1930年代。今に繋がるZine文化の源流といわれている。80年代にはパンク推しのガールズZineが盛り上がり、90年代に写真のZineが続いて、21世紀に入って世界各地でアートブックフェア(ABF)が開かれるようになった。コミュニティのためのツールがいつの間にか主役になって、Zineそのもののコミュニティができたのである。
そういった潮流が持続するにはスケールの制約が必要なようで、各地のABFが大きくなってビジネス化するにしたがってコミュニティ感は薄れていった。しかしそれにあらがうでもなく、アートブックやZineの小さな催しが自然発生しているのが面白い。
小さなZineの催しには、世界中から人が集まる。渋谷ヒカリエの「夏のZine祭り」では、ポーランド、台湾、日本のアーティストが協働してZineの公開制作をしていた。
上海のアートブックショップが渋谷PARCOで開いたフェア。ここにも世界中からZineが集まっていた。
アートブックフェアの始まりとなった「NYABF」を主催するニューヨークのアートブックショップ『Printed Matter』の旧店舗(左)と現在の店舗(右)。旧店舗の方がコミュニティ感がある。
自分の体験を少し話すなら、東京アートブックフェア(TABF)が原宿のフリースペースで始まったときから観に行っていて、神宮外苑で開催された数年は毎年出展していた。大学でアートブックをつくって売るまで(パブリッシュすること)を体験する授業を立ち上げて、その実践としてブースを出していたのだ。しかし、コロナ禍をきっかけに自分たちで即売展示をするようになり、ぼくが退任してからもそれは続いている。偶然とはいえ、TABFが巨大化する前に逃げだしたのは、コミュニティとして生き残るための本能だったのかもしれない。
BMCも1950年代に『ブラックマウンテン・レヴュー』という詩誌を出している。この冊子への寄稿者をブラックマウンテン詩人と呼ぶようになるのは少しあとのことだが、アメリカ詩のバトンをビートニクの作家たちに渡したことでも知られている。
BMCにはその前から印刷工房や製本の授業があり、本=メディアへの眼差しは変わらずあった。学生が立ち上げたリトルプレス「ジャーゴンソサエティ」は、閉校から70年近くたった今でも、まだ続いている。
プロフィール
永原康史
ながはら・やすひと|グラフィックデザイナー。印刷物から電子メディアや展覧会のプロジェクトまで手がけ、メディア横断的に活動する。2005年愛知万博「サイバー日本館」、2008年スペイン・サラゴサ万博日本館サイトのアートディレクターを歴任。1997年~2006年、IAMAS(国際情報科学芸術アカデミー)教授。2006年~2023年、多摩美術大学情報デザイン学科教授。『日本語のデザイン 文字による視覚文化史』(Book&Design)、『よむかたち デジタルとフィジカルをつなぐメディアデザインの実践』(誠文堂新光社)など著書多数。2024年には現地に通って書きためたリサーチと旅のエッセイ『ブラックマウンテンカレッジへ行って、考えた』(BNN)を上梓した。第24回佐藤敬之輔賞など受賞。
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