カルチャー

眼鏡のアイコンを持つ。

大人へのファーストステップ。

2025年9月7日

大人になるって、わるくない。


illustration: Dean Aizawa, Makoto Wada (guide)
edit: Shun Koda
2025年6月 938号初出

素敵な大人は、眼鏡を自分らしく掛けこなしている。
個性ある9人のスタイルから、その選び方を読み解いてみよう。

 年齢を重ねるごとに、眼鏡は身近な道具になる。それは視力矯正の器具としてでもあるし、経験の刻まれた顔にこそ馴染むアクセサリーとしての側面もある。ともあれ第一印象を左右するものだからこそ、自分を象徴する一本を持つことは、大人の嗜みとも言えそうだ。では、どう選ぶか? 『Optic Salon 緑青』の宮川さんによれば、時代を彩った寵児たちの選択は、その手助けになるという。曰く、「目指すスタイルに合わせて背伸びして選んでみることで、それに似合う大人になっていく」。そう言われると、形から入るのも悪くない。まずはこの9人を参考に、自分の一本を探してみよう。

1. JAMES DEAN/WELLINGTON

『理由なき反抗』で知られるジェームズ・ディーンが愛したのは、〈シャディ〉や〈タートオプティカル〉などの米国ブランド。当時アイビーリーガーに流行したウェリントン型は、タイを緩めたジャケットスタイルをはじめとする、ルールにおもねらない彼のファッションを引き締めている。

2. TOM SACHS/CLEAR FRAME

 包装紙やゴミなどを用いてアート作品を作り、スタジオの外でもワークウェアを身に纏うトム・サックス。彼がクリアフレームをかけると、まるで工場で使うセーフティゴーグルのようなチープさと武骨さが顔を出す。透明のフレームが本来持つ爽やかさを感じさせないのが、彼のオリジナリティ。

3. RYUICHI SAKAMOTO/BEKKO FRAME

 後年の坂本龍一を印象付ける、フランスの天才デザイナー、ジャック・デュランによる鼈甲色フレーム。イエローベースの鼈甲は魯山人など昔の芸術家に多い眼鏡で、日本人の肌に馴染む色でもある。モノトーンの服とロマンスグレーの髪も相まって、音楽家らしい知性や創造性を感じさせる。

4. RIVERS CUOMO/NARROW WELLINGTON

 Weezerのリヴァース・クオモには、肩に力の入らない自然体の洒脱さがある。天地の浅い横長のウェリントンは、場合によっては野暮ったくもなるが、それでもスマートに見えるのは、彼自身の持つナードなスタイリングとマッチしているから。トレンドの逆をあえて行く反骨精神が見て取れる。

5. DAVID HOCKNEY/BIG-SIZE ROUND FRAME

 ウォーホルやキース・ヘリングなど、アーティストのチョイスは一癖あり。若き日のホックニーの場合、オーバーサイズの丸眼鏡。髪をブロンドに染めていたことを考えると、これも芸術家としての演出だったはず。ヴィヴィッドカラーのボーダーとの組み合わせも、キャラ立ちに一役買っている。

6. 2PAC/METAL FRAME

 JAY-Zやカニエが掛けた〈カルティエ〉の「GIVERNY」、2PACが着用した〈ジャン ポール ゴルチエ〉の「55-3175」など、ラッパーとメゾンブランドの眼鏡には蜜月の関係が。目元に光る金属の輝きは、富や知性のアピールなのだろう。装飾の少なさゆえ、ストリートファッションとも好相性。

7. DAVID BOWIE/2BRIDGE FRAME

 空軍のパイロット用として、ヘルメットに触れても壊れない耐久性を実現するため、レンズを繋ぐブリッジを2本にした「2ブリッジ」。ミリタリー由来ゆえ、ダンディズムを強く感じる一本だが、中性的でアバンギャルドなデヴィッド・ボウイのスタイルと組み合わさると、グッと色気が増す。

8. YVES SAINT LAURENT/RECTANGLE FRAME

 時代によって掛ける眼鏡が替わるイヴ・サンローランだが、フランスのオートクチュール眼鏡の頂点〈メゾンボネ〉の細長いレクタングルはとりわけ印象的。“モードの帝王”たる彼が、あえてゴーグルのようなスポーティなこのモデルを持ってくるところに、人並外れたセンスが表れている。

9. WIM WENDERS/COLOR FRAME

 ヴィム・ヴェンダースが好むのは、鮮やかなブルーフレーム。ともすればユーモラスになりすぎるところを、同色のシャツと合わせたり、モノトーンの服の外しに使うことでチャーミングに魅せているのは、映画監督で写真家でもある彼の色彩感覚ゆえ。色付きレンズなら僕らも取り入れやすい。

プロフィール

眼鏡のアイコンを持つ。

宮川佑介

『Optic Salon 緑青』代表

みやがわ・ゆうすけ|『金子眼鏡店』『CONVEX』で勤務後、デザイナーの経験も経て独立。個性豊かな欧州ブランドをはじめ、1940〜’90年代のヴィンテージフレームもストックする。

Instagram
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Official Website
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