TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#4】JUJU’S CASTLE

執筆:ジャン・ジュリアン

2025年5月5日

 東京に引っ越してきた大きな理由は、7月11日から上海の『NANZUKA ART INSTITUTE』で開催される個展の準備のためです。

 この展示のきっかけになったのは、日々のニュースのネガティブな話題に心をすり減らしていたことでした。地球温暖化、戦争、抑圧的な政治……。そんな現実から少しでも逃れたくて、大人になるにつれて抑え込もうとしていた、でも結局抑えきれなかった自分の“好きなもの”にもう一度飛び込んでみようと思ったのです。ロールプレイングゲーム、コミック、おもちゃ、そしてビデオゲーム。どれも想像力が根っこにあるものばかりです。

 東京では、ファンタジーがまるで現実を侵食しているかのよう。街のあちこちにキャラクターが印刷されていて、コスチュームを着た人たちもいるし、おもちゃはそこら中にあって、ゲームセンターも無数にあります。

 まるで現実逃避を愛する人たちに、赤いカーペットが敷かれているような街。それがものすごく刺激的でした。だから、自分の注意を引いたものを片っ端から絵に描きはじめたのです。カラフルなステッカー、巨大な似顔絵、不思議なオモチャなどなど。いつもと同じ画材を使いながら、現実とフィクションができるだけ自然に混ざり合うような、そんな“観察の絵日記”のようなシリーズを作ろうとしています。

 展示では、僕の家族が日常の中でフィクションの世界を旅する様子を追いかけていきます。ただ眺めるだけでなく、「武器(=表現)」を手にして、描かれたアーティファクトや衣装をつくるような流れです。モンスターや不思議な生き物たちが住む比喩的な“部屋”を巡りながら、来場者もボードゲームを遊んでいるときのようなワクワクを体験できるような構成にしています。

 また、『中野ブロードウェイ』や秋葉原で見つけるようなオモチャやグッズを自分でつくる絶好の機会にもなりました。

 唯一の心残りは、東京に来てから感じたこのビジュアル的な興奮すべてを、描ききる時間が足りないこと。
それくらい刺激が多すぎる街です!

Profile

ジャン・ジュリアン

1983年、フランス生まれ。パリを拠点に活動。
イラストレーション、絵画、彫刻、インスタレーション、写真、映像、書籍、衣類、デザインオブジェなど、幅広い分野で製作を行う。
ニューヨーク・タイムズ、ナショナルジオグラフィック、エルメス、プチバトー、VOGUEなど、世界的なメディアやブランドとコラボレーションを行い、世界各地で個展を開催。
2025年は、大阪・関西万博にて〈Tara Foundation〉のための特別インスタレーションを手がけるほか、7月には上海の『Nanzuka art institute』にて個展「Le Château」を開催予定。これらのプロジェクトに取り組むため、一時的に東京を拠点としている。

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