TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#3】同じ海

執筆:ジャン・ジュリアン

2025年4月28日

 数年前、私は「同じ海」というタイトルの展示を東京で開きました。フランスと日本のサーフィンやビーチを中心に描き、海を共にする“魂の仲間たち”が集まるというアイデアが気に入っていました。

 海は、私の個人的な生活にも創作活動にも大きな影響を与えています。ブルターニュ出身の家族が漁業と深く関わってきた歴史や、私自身のサーフィンへの愛がその背景にあります。毎年日本に来るたび、鎌倉の友人である、花井祐介さん、Hi-Dutchさん、関澤さんを訪ねています。祐介とHi-Dutchはギャラリーのオープニングで出会った、才能があり寛大なアーティストで、サーフィンを通じて深くつながりました。いつも親切で、ホテルから海まで何から何まで面倒を見てくれます。彼らの穏やかでクールな空気感は、特に短くて濃密な仕事の滞在中には、東京の喧騒からの清涼剤のようです。関澤さんは素晴らしいサーフボードシェイパーで、親切にも私のために何本もシェイプしてくれました。最初の1本には、祐介が描いたイラストで、私、祐介、Hi-Dutchの友情が刻まれています。関澤さんの工房は山の上にあり、海を一望できる素晴らしいロケーションです。彼が抹茶を点ててくれて、それを飲みながらみんなで話す時間は、私にとって日本での大切なひとときです。

 ここに住むようになってから、私は大阪万博2025のフランス館に向けた大型インスタレーションの準備を進めてきました。海洋保護と探査を支援するタラ財団から招待を受けたプロジェクトです。タラ財団は、海洋生物学の研究を行いながら、最前線の探査活動を通してこの重要な生態系を守る素晴らしい仕事をしています。科学者やアーティストを乗せて航海を行う船や、北極圏の調査用の新しいステーションも備えています。

 このインスタレーションでは、船と海洋哺乳類の中間のような巨大なハイブリッド生物を制作することにしました。その体には、文明と海との長い関係を語るような絵や模様が描かれ、神話や伝説を通して、より大きな問題を語る仕組みになっています。ギリシャ神話から始まり、世界中の文化を旅する中で、日本の妖怪や怪獣の世界にも深く入り込んでいきます。最終章では、新たな神話を創り出し、乱獲、汚染、地球温暖化といった現代の問題について語ろうとしています。

photo: Balthazar Jullien

photo: Balthazar Jullien

 NANZUKAの協力で、私たちは栃木にあるアドジャパンを訪れました。GINZA SIXでの展示以来、私のすべての彫刻作品を日本で制作してくれているパートナーです。とても親切で、忍耐強く、私は彼らと仕事をするのが大好きです。そこには家族のような雰囲気があり、いつもチーム全員で地元の居酒屋に連れて行ってくれるなど、楽しい時間を過ごしています。社長はバナナのような髪型とつられてしまう笑い声を持った、カリスマ的な人物です。都会を離れて、地元の人たちと触れ合いながら、日本のまた違った一面を見ることができるのも嬉しいです。

 日本の神話の世界に飛び込むことで、私が日々体験しているカラフルで現代的なイメージとぴったり合う、視覚的な興奮がありました。海賊の骸骨、カッパ、海坊主などのキャラクターを描くことや、彼らにまつわる象徴的なイメージに触れることは本当に楽しい作業でした。このインスタレーションが、その魅力を十分に伝えられればと願っています。そして、世界中から訪れる人々が、これらの多様な生き物たちや、その背後にある物語を楽しんでくれることを期待しています。

プロフィール

ジャン・ジュリアン

1983年、フランス生まれ。パリを拠点に活動。
イラストレーション、絵画、彫刻、インスタレーション、写真、映像、書籍、衣類、デザインオブジェなど、幅広い分野で製作を行う。
ニューヨーク・タイムズ、ナショナルジオグラフィック、エルメス、プチバトー、VOGUEなど、世界的なメディアやブランドとコラボレーションを行い、世界各地で個展を開催。
2025年は、大阪・関西万博にて〈Tara Foundation〉のための特別インスタレーションを手がけるほか、7月には上海の『Nanzuka art institute』にて個展「Le Château」を開催予定。これらのプロジェクトに取り組むため、一時的に東京を拠点としている。

Instagram
https://www.instagram.com/jean_jullien/