TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#1】古いセーターを解いて糸に戻し、新しいセーターを編む

執筆:小梶真吾(TALK NONSENSE)

2025年4月11日

トークノンセンスは2024年から、ニットデザイナーの沖くんと始めた新しいプロジェクトだ。いま僕らが取り組んでいるのは、自分たちの手で「古いセーターを解いて糸に戻し、新しいセーターを編む」という、一見すると奇妙な活動。外から見れば「なんでわざわざ?」と思われてもおかしくない。でも、こんなふうに手間のかかる、寄り道みたいな物作りをしているからこそ、ありがたいことに執筆のお話をいただけたのだと思う。今回を含めて全4回。このプロジェクトのことや、僕らがリサーチしていること、ちょっとした歴史の話、実際にやったワークショップのことなんかをつらつらと書いていきたい。

TALK NONSENSEのセーター。僕自身、真新しいものを着るのに少し抵抗があるのだけど、新品でも古着でもないこの不思議な表情は着ていて心地が良い。ちなみにこれは古いセーターからアップサイクルした糸が61%ブレンドされている。

ここ数年、僕らみたいに服作りをしている人間を取り巻く環境は目まぐるしく変化している。特に環境意識の高まりから、素材選びや倫理観など新しいスタンダードが次々と求められ、現場では戸惑いの声もよく耳にする。僕自身も、2020年にフランスで世界初の「衣類廃棄禁止法」が公布された頃から、日常的に環境への配慮を求められる機会がぐっと増えた。最初にニュースを聞いたときは「ディストピア小説の冒頭かよ!」と思ったけれど、気がつけばこうした問題と切り離して仕事をする日のほうが少なくなっている。

一方で、意識の高まりの裏には、どこか他人事っぽい空気も漂っている。それはきっと、多くの人の手が関わり、その力に頼り切った衣服の製造システムに原因があるのだろう。誰が、どんな材料で、どこで作っているのか――そのすべてを追えるようなトレーサビリティを実現するのは企業でも簡単じゃない。仕組みの中にいる僕ら自身でさえ、ものが生まれる背景が曖昧なまま、ユーザーにもっともらしい言葉を押しつけてしまう構造に、自己完結的な限界を感じる。だからこそ、自分自身で見て、触れて確かめたことを、(ささやかでも)社会に返していくことを大切にしたいと思った。

民主的で共同的な制作手法を探究する試みU-A-R-K(英語:Unravel and Re-knit、日本語:ユーエーアールケー / 解いて編んで)は、僕らが運営するワークショッププログラム。古いセーターを糸の状態に戻すことにフォーカスした#001の風景写真。ミニマルで自律した素材調達の実験。

実際に古いニットウェア解し機を使ってセーターから糸を解き紡ぐ様子。元々はニット製品の補修や編み直しの際に使われる産業用のもので、この機械自体も、日本のニット産地である新潟県五泉市の製作所にて作られたと記録が残っている。

僕らが試みるのは『ものが生まれる工程にどう関わるか』の再考とそこからはじまる実践だ。時にはメーカーもユーザーもごっちゃになって考える。大量生産や経済効率の追求には及ばないし、巨大な問題をすぐに解決することもないだろう。それでも、変容していく世界で起きる出来事を、包括的な視点で判断するための指針となるひとつやふたつになれればいい。少なくとも、今とまったく同じ未来を想像して生きていくのは、退屈だから。それくらいの心持ちでこの営みと向き合いたい。

プロフィール

小梶真吾

こかじ・しんご|〈TALK NONSENSE〉ディレクター。1991年生まれ。東京都出身。京都芸術大学(旧・京都造形芸術大学)卒。卒業後渡仏しAcadémie Internationale de Coupe de Paris修了。帰国後、いくつかのブランドやデザインスタジオに勤務、立ち上げに関わる。2022年にKKJデザイン事務所を設立。衣服が介在するあらゆる事の企画・生産・調査・研究・監修を活動領域とする。2024年からニットデザイナーの沖裕希とともに〈TALK NONSENSE〉を立ち上げ、製品の開発、リサーチ、ワークショップなどを行っている。

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