TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#2】メキシコ 死者の日 ー 各州に見る独自の風習 

執筆:Momoca

2025年1月16日

メキシコの国土面積は日本の約5.2倍です。その広大な土地には地域ごとに異なる豊かな文化が息づいています。第2話では、死者の日を通じてメキシコ各地の多様な文化に触れていきましょう。

プエブラ州の小さな村の民家のオフレンダ。白い布がプリーツされていて、天使がいくつも飾られている。

プエブラ州:バロックの優美さ

まるでバロック芸術の傑作のようなオフレンダで知られるプエブラです。ある小さな村では、白い大きな布や紙にプリーツを施し、それを祭壇全体に覆うという特徴的な装飾が施されます。装飾にはたくさんの天使のモチーフが使われ、乙女チックで優雅な雰囲気が漂っています。さらに、淡い色のお菓子や地元の伝統菓子が供えられ、スペイン植民地時代の影響と先住民の文化が融合した華やかさが際立ちます。

ベラクルス州:アフロカリブの活気

コーヒーの生産でも有名なベラクーズの死者の日は、アフロカリブ文化と先住民の伝統が融合した賑やかな雰囲気が特徴です。リズミカルなドラム音や活気ある踊り、トロピカルフルーツで彩られた祭壇が特に印象的です。一部の村では、毎年お墓から頭蓋骨を取り出し、丁寧に清めて供えるという風習もあり、この地域の死者の日は音楽と踊りを通じて命を祝う賑やかな祭りとなっています。

花びら、種、豆、とうもろこし、カクタスなどで地面に模様が描かれている。

骸骨とセンパスチトルの花で街中は鮮やかで活気に包まれる。

オアハカ州:芸術的な祭壇とコミュニティの絆

オアハカはユニークな感性のあふれるオフレンダとコミュニティの絆で知られています。ゾカロ広場には砂で描かれた繊細なタペストリーや、マリーゴールドで飾られた巨大な祭壇が並びます。サントドミンゴ教会周辺では、祝祭のパレードがさらに賑やかで華やかさを増します。街全体が命と死をテーマにしたギャラリーに変わり、この地域の芸術的な感性と文化的な深さが際立つ時期です。オアハカ市周辺の村々で飾られる卵白、小麦粉とお水で出来たお茶目な顔つきパンがとても独創的です。

タペーテ・デ・アレーナ、砂や花びらなどで、地面に精緻なデザインが描かれている。

メキシコシティ:都市の壮大さ

メキシコシティの死者の日は、都市ならではの壮大さが特徴です。レフォルマ通りでは大規模なパレードが行われ、観客を魅了します。数年前、メキシコ全土の伝統的なオフレンダがゾカロ広場に一堂に集められ、各州の異なる文化やオフレンダの意義を知ることができる展示が行われました。都市的な創造性と伝統が融合したこの祝祭は、メキシコシティならではの魅力を放っています。

メキシコシティの中心、ゾカロ広場に展示された大きな民族服を着た巨大人形。

メキシコシティの古い建物の中で披露される大きなオフレンダ。毎年見に行くのが楽しみ。

ミチョアカン州:神聖な静寂

ミチョアカン州では、先住民プルペチャ文化に根ざした神聖で静かな死者の日が行われます。特にパツクアロ湖周辺の村々やハニツィオ島では、夜通し墓のそばで祈りと歌を捧げるキャンドルライトの儀式が特徴です。霊的なつながりを重視するこの州の祝祭は、深い内省と神聖さに包まれた特別な雰囲気を持っています。

ミチョアカン州特有のスタイル。センパスチトルの花が木の骨組みを覆うオフレンダ。

お供えものピンクのパン、タマレス(とうもろこし料理)、さとうきびやアグアフレスカ(フルーツジュースに水を加えた飲み物)。

グアナフアト州:芸術と死生観の融合

グアナフアトの死者の日の祭壇は、地域の芸術的なセンスとユニークな死生観を反映しています。カラフルな建物が並ぶ谷に面した街並みが特徴で、祝祭の際には街全体が更にカラフルに彩られます。特に地元の大学で行われるオフレンダ展示は、学生たちが地域の歴史や文化を学びながら、創造的で個性的な祭壇を作り上げます。また、グアナフアトのトンネル内で行われるオフレンダ展示も非常にユニークで、地下空間が幻想的な祭壇のギャラリーに変わります。この展示では、キャンドルの明かりがトンネルの壁を柔らかく照らし、神秘的で特別な雰囲気を醸し出します。

死者の日にオアハカにて。独特な死者の日のお化粧をした現地の方達と一緒に(中央は私です)。現地の方々が着ているのはそれぞれの村の民族衣装。

メキシコは広大な国土を持つため、州ごとに文化や伝統が大きく異なります。地域ごとに独自の料理、音楽、お祭りがあり、これらはその土地の歴史や自然環境に深く根ざしています。その多様性がメキシコという国の魅力でもあり、各州のオフレンダの違いにも大きく影響を与えています。各地を訪れるたびに新たな発見と感動を与えてくれるその土地の文化や風習は、まさにメキシコを知る楽しみのひとつです。

プロフィール

Momoca

ももか|ペーパーアーティスト / 祭壇クリエイター。カリフォルニア州バークレーで約25年暮らした後、2021年にメキシコシティへ拠点を移す。紙を主素材としたオブジェや絵画を制作し、旅で得たインスピレーションや内なる世界を表現する祭壇アートも手掛ける。その活動は、メキシコの「死者の日」と日本の「お盆」の祭壇を並べた作品がニューヨークタイムズに掲載され注目を集めている。かつては自身の洋服ブランドをバークレーで立ち上げ10年間店舗経営、〈Adidas〉や〈Red Bull〉といった大手ブランドとコラボレーションを実現。また、『シェ・パニーズ』のアリス・ウォータースや〈Apple〉社のデザイン部副社長エヴァンス・ハンスキーのイベント装飾を手掛ける。モロッコ・マラケシュにあるイヴ・サンローラン美術館からデザイン賞を授与される。

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