TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#1】1本の音楽とデモテープの話

執筆:二名敦子

2024年11月15日

フォートローダレールのビーチに向かう道端でパチリ。1986年

こんにちは、二名敦子です。
1980年代、今で言うCity Pop のアーティストとして活動していました。
出産を機に音楽活動を引退していたところ、旧知の村田和人さんから
「また一緒に歌いませんか?」 
お誘いを受け 2011年からライブ活動を再開しています。

村田和人さんと 。1986年 Sound in Cst ポラロイドカメラで撮影

私がお休みしていた1988年から2011年、音楽産業はめまぐるしい変貌を遂げました。
レコードからCDそして配信へ。カセットからMD,デジタル音源へ。
再デビューした当初、リハーサルの音源を録音したかったのですが
録音って何ですればいいんだろう??
浦島太郎感 半端なかったです。
なんせカセットテープでガッチャンコの時代からタイムワープして来たので。
あの頃、年下のママ友に教わって買ったボイスレコーダー。小さくてびっくりしました。
今でもたまに使っています。

さてさて 80年のお話。
再デビューのライブを手取り足取りお世話してくれた大恩人の村田和人さん。
当時から、ふらっとスタジオに現れては曲作りの方法や歌い方のアドバイス、
音楽のこと、業界噂話など沢山話してくれる頼れる兄貴でした。
村田さんといえば「1本の音楽」。83年のスマッシュヒットで カセットテープのCMソング。
80年代は 手軽に持ち運べ、手軽に録音できるカセットテープ全盛期。
自分の好きなアーティストのアルバムを録音したり、ラジオの番組を録音したり。
みんなそれぞれお気に入りの1本の音楽があったのではないでしょうか?

レコーディング用に作曲者が作るデモテープも 当時はカセットが使われていたのです。
まだ歌詞もついていない生まれたばかりのメロディたち。
私は自分で曲を作ったりもしますが、
いろんな方から沢山曲を書いていただいています。
そして、様々なアーティスト、作家さんから送られたデモテープは
それぞれの個性あふれるものでした。
製品化されていない分、ストレートにアーティストの魅力、こだわりが詰まった1本。

デモテープのカセット達

たとえば フュージョンバンド、カシオペアのギタリスト野呂一生さん、
ベーシスト桜井哲夫さん(当時) お二方のデモ音源。
ドラム、ベース、キーボード、ギターの伴奏がきちんとオンラインで録音されており
アレンジも手の込んだものでした。
そのままレコードにしてもいいほどです。
今みたいにPCで手軽に誰でもトラックを作れる時代ではなかったので
その完成度の高さにびっくり。
さすがカシオペア!
インストゥルメンタルのアレンジも込みで楽曲。
そんな彼らのメッセージが伝わるデモテープでした。

「風の街角 」(作詞吉田美奈子、作曲村田和人 編曲芳野藤丸)の豪華なコーラス隊 。左から安部恭弘さん、私、村田和人さん、小板橋博司さん 同じく1986年 Sound in Cst

逆のタイプは安部恭弘さんと村田和人さんからのカセット。
お二人にはたくさんの曲を提供していただきました。

先日ライブで久しぶりに歌った「ブギー・ボード」は安部さんの曲ですが、
デモ音源はキーボードと歌だけの弾き語り。
甘い歌声とジャジーなコード進行。
歌詞を付けレコーディングされた「ブギー・ボード」とは一味違う 大人の魅力あふれるテイクでした。

そして村田さんのデモはギターの弾き語り。
普通、デモテープは歌詞なしのハミングや楽器でメロディを入れることが多いのですが
村田さんの場合、いつもちょっとデタラメっぽい?英語で歌っています。
サビの部分とかは、その英語の歌詞がメロディにすごくハマっていて。
それ以外考えられなくなり、そのまま歌詞になることも度々。
私のアルバムに入っている「ちょっと泣きたいWednesday」「April Shadow」「ムーンライトママ」の3曲は 村田さんの歌うデモテープの英語の歌詞をそのまま使わせてもらっています。
「細かいパート、歌い回しは歌いやすいように変えてくれていいよ!」
新曲をもらうたび送られるその言葉は 勝手な解釈で歌いがちの私にとって とてもありがたいものでした。

「風の街角」は 同じメロディを村田さん→ 安部さんの順で歌うパートがあり、歌入れを終わった安部さんがブースを出た途端
「うーん、村田の方が上手かったな。まぁあいつの曲だしな。」いやいや、お二人とも素敵でしたよ。良きライバル、だったんですね。

最近ライブでよく歌っている「Sunset Cruising」の作曲者、岩沢二弓さん(ブレッド&バター)のバンド演奏のデモテープ。
みんなでワイワイ録音したんだろうなー、ハッピーオーラが溢れていました。

「二人のWednesday」は歌詞がつく前から 切なく甘い恋が浮かぶメロディ。
加藤和彦さんご本人の優しい歌声も相まって、キュンとさせられます。

いろんなアーティストの方からいただいた たくさんのデモテープ。
それぞれの思いが込められた1本の音楽。
アナログ音は、その向こう側にいる人たちの温もりも伝えてくれました。
カセットテープに録音された音楽を想うと お白湯を飲んだように心が温かくなります。

次回はそんなデモテープの曲たちをハワイでレコーディング
「Loco Island」にまつわるエピソードを。

プロフィール

二名敦子

にいな・あつこ|1959年大阪府生まれ。1979年に早川英梨名義で、シングル「誘われて夏」や、アルバム「CITY」をリリース。1983年にアーティスト名を二名敦子にし、アルバム「PLAY ROOM~戯れ」でテイチクからデビュー。代表曲に「オレンジバスケット」、アルバム『LOCO ISLAND』など。夏のリゾートを思わせる曲が多く、パブロクルーズや、ヘンリーカポノなど海外の有名サーフロックミュージシャンとの曲作りにも積極的だった。1986年に引退したが、2011年に復帰。ライブ活動を行う。