TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#4】制作2/2

執筆:渡部萌

2024年11月3日

山形で過ごして3年ほど経った頃、私はスランプだった。
あんなに輝いて見えた藁や蔓や樹皮の素材が、ボソボソとした茶色い土塊に見える。
自分までボソボソしている感じがしてくる。
プラスチック製品の方がカラフルでツルツルしてておしゃれに思えて、急に恥ずかしくなった。

「大学も辞めちゃって、他に特化した事もないし、」と背水の陣だったし、
「私は10年間は山形で作り続けないと」と強く思っていた。

そんなある日、一回り年上の知人とおしゃべりしていたら
「まだ若いしどこにでも住めるし何でもできるよね〜」と、何気なく言われた。
「ああそうっすね〜」と軽く返したと思うけど、
内心では、“山形で土着的な物作りをする自分”像が崩れ出し、大きく動揺した。

自分像が崩壊していって、途方に暮れながら、
私は山形で触れてきた“確からしさ”に固執し依存していたのだと思い知る。

楽しくなくなっちゃったのは、一つのことを強く信じると同時にそれ以外に抗っていたからだ。

これはいい機会だから東京に戻って別の可能性も試してみようと思った。

切り替えは割と早かった。
制作もできるように2Kで5万の部屋を高円寺で見つけた。

バイトをしたりファッションの学校に行って、しばらくは自分を探していた。
仕事や考えや興味が違う人とでも楽しく喋れるのは嬉しい。
側からはより輝いて見えるけど、みんな色々あるんだなと知って、
自分は自分にできることをするしかない、と諦めがついた。

6畳のひと部屋には樹皮と蔓が積み上がっていて、細々とかごを作り続けていた。
コロナで飲食店のバイトがなくなって、同じタイミングで籠を作る仕事が増えてきた。

迷ったり考えて変わりながら、作ることを続けてきたのは、よかった。
確信はなく、やってみては考えて、考えや体感は常に変わっていく。

あと二ヶ月ほどしたら山梨に引っ越し、新しい環境での生活と制作がはじまる。
引き続き、私にとって作ることが中心の実践なのは変わらない。

プロフィール

渡部萌

わたなべ・もえ|1996年、東京都生まれ。植物素材を採集して、かごを制作している。年に数回の展示会を中心に作品を販売。次の展示会は2025年の夏ごろに愛知県の『MATOYA』にて開催予定。

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