カルチャー
全国の古物好きが一目置く店が、福岡の山奥にあった。
2024年9月4日
現代にはない〝人間味〟と〝愛嬌〟を求めて。
法律、設計、芸能などなど世に「事務所」は数あれど、「収集事務所」ってのは寡聞にして知らない。おそらく世界唯一と思しき語を屋号に掲げる店が、福岡・八女郡ののどかな風景の中にある。「鋤田収集事務所」は店主の鋤田光彦さんが集めたさまざまな古物を販売する店……と聞けば、「それって普通のヴィンテージショップですよね」と思うかもしれない。実際、その店舗と併設の倉庫に所狭しと並ぶモノたちを見れば、ヴィンテージどころか、失礼ながらその辺のリサイクルショップで軽くスルーしてしまう類いのアイテムばかりに見える。懐かしいスチール缶のゴミ箱、プラスチック製CDラック、ナゾめいたお土産ものの人形……しかし、この空間でこれらのモノたちと3分間向き合えば、それらが早計だったと気づくだろう。「うーん……何か、これって……ちょっとヘンじゃない?」。デザインのバランスが微妙だったり、素材の質感が不思議だったり、絵柄の表情が面白かったり。何とも形容し難い、奇妙な存在感と魅力。どこかで見たことあるようでない、知ってるようで知らない、ありそうでない。そんな絶妙なツボを突いてくるモノたちを、鋤田さんはひたすら〝収集〟し続けてきたのだという。
「子供の頃からモノを集める〝習性〟があったみたいで。部活のテニスの試合のパンフレットから受験票まで取っておいたり。食玩、コイン、切手とかの〝王道〟もやりましたけど、やっぱり個人的で日常的なもののほうが好きだなと。その後も色々集め続けていたんですが、コロナの流行で家にいたとき、自分の部屋に改めて目が向いたら、『自分が本当に好きなのはこれじゃない』と思い立って。近所のリサイクルショップを回り始めたんです」
幼少期からの筋金入りのコレクター鋤田さんに、ある日降って湧いた「天啓」。そのリサイクルショップ巡礼旅こそが、これら大量のモノたちの〝発見〟の場となったとか。
「例えば、現代のスマホが普及する前、2000年代頃の携帯電話って日々進化してましたよね。横向きに開いたり、スライドしたり……凝ったギミックがあったりしてデザインも多様だった。一見、無駄にも思えるような個性が量産品の中にもあることが面白いなと。思いつきみたいなアイデアひとつで商品化したり、その強引にバクチを仕掛ける感覚は現代にはないもので。何とか目立とう、ウケようと思って作ったけど売れなかったり。でもその〝スベってる〟感じに何だか人間味や愛嬌があるというか。少しズレたりはみ出したりしている部分に魅力を感じるんです」
情報が瞬時に共有され、すべてがコモディティ化していく現代において、過去の時代からやって来たモノたちが持つ〝絶妙〟な個性はやはり「オンラインでは探せない」という。
「検索にひっかからない、価値が定まっていない。そこにこそ自由を感じるので。僕にとって〝収集〟は労働ではないんです」
収集事務所で見つけた!
ちょっとヘンだけど、愛嬌とクセのあるモノたち。

年代不明の日本の振り子時計。モダンとクラシックの要素が入り交じる、鋤田さんお気に入り。

グラフィックの思い切りがいい「KOSÉ COSMETICS」の缶。かつての持ち主の暮らしを想像したくなる、生活感のあるデザイン。

「Mr.Instant」というとぼけた名前の湯沸かしポット。多機能そうなのに、ただお湯が沸かせるだけ、というギャップがいいのだそう。

倉庫には数多くのだるまが並ぶ。ホルスタイン柄のだるまなんてどこで作ってるんだ。

背骨の標本かと思ったらCDラック。2枚入りのアルバムは入らないので、実用性は多分考えられていない。

マルちゃんでお馴染み東洋水産の懸賞品。スフィンクスのうなじのところに小さなデジタル時計が付いている。ジタバタと動いて声を上げながら時間をお知らせする。

首が外せるボウズ頭の貯金箱。胴体にお金が貯まるにつれて首が伸びていく。

短すぎる色鉛筆。缶に入れていたが、中が見えたら面白いと思ってガラスケースに入れてみたという。

「FREEWAY」(高速道路)の文字と金閣寺が描かれた京都の謎産品。

〈オカムラ〉の’90年代のソファ。会社の応接間で使われていたものだが、針のような脚2本だけで本体を支える奇抜なデザイン。

尻尾のような取っ手が付いた日本製のカップ&ソーサー。見た目どおり持ちづらい。

イタリアのメーカー・ナルディスの椅子。栓抜きのような背もたれは、意外と心地いい。
インフォメーション

鋤田光彦
すきた・みつひこ|福岡県糸島市生まれ。収集を趣味とし、2020年に福岡県八女市にて鋤田収集事務所での活動を開始。2023年に拠点を八女郡の倉庫に移し、蚤の市への出店等も行う。

鋤田収集事務所
◯福岡県八女郡広川町水原2767 ※アポイントメント制
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