TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#3】私と車の話 TOYOTA LAND CRUISER 40

執筆:ピーター・アイビー

2024年8月27日

「パパ、ゴーダウン!」

「ちょっと待ってね。朝からハマると幼稚園に遅れちゃうから、帰り道にしよう」


 平日の朝と夕方は、子どもたちを乗せて川沿いの土手の斜面を降り、手入れのされていない草むらを進みます。車の高さほどある草をなぎ倒し、ウィンドシールドに虫や蛙が飛び乗ってくる。完全にタイヤが泥にハマって抜け出せないときは、友人のJeepの力を借りてウインチで引っ張り出してもらうことも。毎日の子どもたちの幼稚園への送り迎えは、ちょっとしたアドベンチャーです。

 私はもともと4WDに興味はありませんでしたが、子どもができてからファミリーカーとしてオークションで購入したのがトヨタのランドクルーザー 40(ヨンマル)でした。当時は今ほど人気車ではなかったので安価で手に入り、オフロードや雪道で遊べるように足回りも自らの手でかなり改造しました。US ARMYが作成した、車両を救助する技術指導書をオンラインで探し出して研究し、練習で自ら泥にハマりに行くこともしばしば。

 中でも毎年楽しみにしているのが、同じくマニアックにランクルを運転をする人たちが集まるスノーマウンテンアタックです。名前の通り、閉ざされた深い雪山に入り、果敢にアタックしながら山頂まで突き進みます。雪にハマったら、ウインチやスコップなどの道具を駆使してどうやって救出するかを考える経験が楽しいし、ここでは私の年齢は若い方で、長年こうして雪山に入っていく先輩たちに仲間に入れてもらって遊べることが嬉しいです。

 2015年に自宅を解体し始めた頃は、40の中をよく寝床にしました。自分を取り巻くもの全てのコントロールが効かず、思い通りに事が進まない大変な時期でしたが、40の中だけは唯一自分がハンドルを握れる場所。あちこちぐちゃぐちゃでも、この車に居る時だけは、Every things is OK.日が暮れると裏山の牧場や田んぼの道などどこでも停めて眠りました。B型エンジン音もすごく好きで、安心します。

 この時代のランクルは壊れず、燃料さえあればずっと動くことができると思います。乗り心地が良いとか、ラグジュアリーとかじゃなくて、ただ働く車。現代の車は電気の部品が多くて時間が経つとすぐに部品を作らなくなりますが、1960年から1984年までの間で作られた40とその後に続く70は、約30年もの間ほぼ同じ部品を使っています。そのため部品が手に入りやすいし、海外でも沢山販売されたこともあって英語の情報も手に入りやすい。私がランクルを選んだ理由のひとつです。

 時代はエコと言うけれど、10年ほど車を使ったら乗り換えて、捨てる、捨てる。おじいちゃんみたいなことを言うけれど……昔は良かった。

プロフィール

ピーター・アイビー

ピーター・アイビー|ガラス作家。1969年、アメリカ・テキサス州生まれ。ロードアイランドスクールオブデザイン卒業後、独立。作品を制作しながら、大学で臨時教諭として働き、吹きガラスの仕事があればどこへでも手伝いに行った。2002年に来日し、2007年に富山県に移住。現在は住まいの隣に構えた工房「流動研究所」で作品制作を行う。

Official Website
https://www.peterivy.com/ja/