カルチャー

町のお客さんの顔を想像しながら。再スタートした古書店『流浪堂』。

東京五十音散策 学芸大学⑤

2024年8月5日

photo: Hiroshi Nakamura
text: Ryoma Uchida
edit: Toromatsu

東京都内の駅名を「あ」から五十音順に選出し、その駅の気になる店やスポットなどをぶらりと周っていく連載企画「東京五十音散策」。「か」は学芸大学へ。

店主の二見さん。

 今年7月、2年の時を経て学芸大学の地に古書店『流浪堂』が帰ってきた!

「『あんぐいゆ』さんも学大に戻ってきましたね。僕もよく伺っていましたし、お客さんでもウチのお店に寄って、本を手にコーヒーを飲みに行く方はよくいらっしゃいましたから、嬉しい限りです」

 元バンドマンでかつては本と無縁の生活を送っていたという店主の二見彰さん。20代後半にバンドを辞め、先輩が働く古本屋を手伝ったことがきっかけで、古本の面白さに気づいていった。そして『流浪堂』を2000年に学芸大学駅近くでオープンしたのだ。

「自分の趣味ももちろんあるとは思いますが、それよりも町のお客さんの顔を想像しながら仕入れていますね」

 在庫のほとんどはお客さんからの買取と、そんなお客さんたちのことを想像して二見さん自身がセレクトしたもの。昔の雑誌や見たこともないような古書、隠れた名著、絵本、漫画、美術書、詩集、自然、人文科学系の書籍などなど、物欲と知識欲を刺激させられるディープなセレクトがぎっしり敷き詰められた空間は、この学芸大学という場で生きる人々の魅力が反映されている。ただ、建物の老朽化等もあり、2022年3月で一度はお店を閉じた。今年の7月に学芸大学駅の高架下に移転し再オープンすることができたのも、お客さんあってのことだと二見さんはいう。

「元はといえば古本屋も偶然始めたようなものだったので、再開せず、別の道を歩む選択肢もあったとは思うのですけど、ああいった形でお店を閉じてしまうのはなんだか悔しくて。やっぱり通ってくれるお客さんがいたからこそ、この町でもう一度会いたいなと思ったんですよね。お客さんに挨拶するためにも早く再開することを優先してしまったから、まだまだ在庫が倉庫にある状態です。これから少しづつ棚出しをして店内をさらに充実させていくつもりです」

 新装開店するにあたり、店内は美麗に。実は本棚にも変化があったのだとか。

「本棚を『箱』のようなイメージで、職人の方にオーダーで作ってもらいました。文庫本や単行本や大判の組み合わせを考えるのは楽しいですし、『箱』の中で一つの世界を作れればと思っています」

 さまざまな世界が隣り合う「箱」たちにはあえて統一感をもたせないようにしているのだとか。無作為に隣り合う「箱」同士の世界から、訪れた人はきっと新しい発見や出会いがあるはずだ。

「色んな国の人や色んな仕事の人が混在する場所が本屋だと思います。お金を払わなくても出入りできる場所ってなかなかないですし、ぜひふらっと立ち寄ってみてほしいですね」

 今後はさらに本を充実させることと、映画の上映イベントや展示、音楽ライブを行えるよう企画を構想中だそう。お客さんのことを第一に思う二見さんの優しさと、そんな学芸大学の町に愛され続ける書店。再び流浪の旅路のスタートを切った。

以前のお店を一旦閉じる際に書家・華雪さんに書いてもらったという「舟」の文字。新しい場所に漕ぎ着けたという喜び、思いを込めて飾られていた。

旧店内の写真。

店内もかなり広くなった。既にぎっしり感があるが、これからが楽しみだ。

店外からも見えるようにディスプレイ。

インフォメーション

町のお客さんの顔を想像しながら。再スタートした古書店『流浪堂』。

流浪堂

夕食後や夜の散歩の途中に寄れるよう、22時までオープン。高架下ということで時折電車の通る音が聞こえるが、「それもまた旅をしているようでいいですよね」と笑う二見さんが素敵だった。スタンプカードも引き続き使えるみたい。

○東京都目黒区碑文谷6-7-22 12:00〜22:00(日・祝は21:00まで) 木休