TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#1】私と車の話 HONDA S600

執筆:ピーター・アイビー

2024年8月13日

 「ピーターは車が好きだね」とよく言われるけど、それは違いますね。新しい車は電気の線が多くて、見てもよくわからない構造でつまらないし、多くの車はあまりいいデザインとは言えなくて、うんざりしてしまう。

 私の世代のアメリカ人にとって車やバイクは、自由や独立の象徴だと思います。私にとって自分で車を直すことは当たり前だし、部品を好きに組み変えて改造することで、どこにもない自分だけの“One of Kind”になります。といっても、見た目を格好よくしたり、スピードが早くなるようなパーツに変えるのではなくて、愛車のランクル40なら、雪道でベストに遊べるようにするという風に自分が使いたい用途に合わせて改造します。つまるところ、運転するのが好きなんです。

 それに、改造やレストアをして仕組みを理解していれば、例えばドライビングテクニックのひとつ、ヒール&トウをしているときでも内部の想像ができます。クランクシャフトが回転し、ギアが入ることで、ディファレンシャルがドライブシャフトとホイールに動力を送る……。ひとつひとつのパーツの動きはシンプルだけど、働きが重なり合うことで、とても複雑な動きになります。まるでオーケストラがハーモニーを奏でているような車との調和が感じられて、相乗効果でさらに運転が楽しくなるんです。

 そんな私が初めて車を運転したのは、12歳の頃です。義理の母が家に帰ってくるなり、車の鍵を渡して、「タイヤがパンクして2キロ先に車を置いてきたから、どうにかしてちょうだい」って。そう言うなり彼女は冷蔵庫からビールを出して飲みはじめちゃって。それで私は義母の車・HONDA S600のメンテナンス本を書棚から取りだし、空気入れを持って、自転車で向かいました。着いてみると、タイヤは2本パンクしていたので、まず最初に、ジャッキが車のどこに収納されているのかを本で調べるところから始めて、次に車体のどこにそれを設置するか確認し、ジャッキアップしました。それからパンクした2本のタイヤに空気を入れて、どちらが先に空気が漏れるかを確認しました。より早く漏れる方をスペアタイヤと交換して、漏れがマシな方は空気入れでパンパンに膨らました状態にし、乗ってきた自転車は車のバックドアに突っ込み、そろそろと家まで運転して帰ったのです。

 考えてみると、修理ができたのは、レゴで説明書を読むのに慣れていたからかな。当時のレゴは、歯車やモーターなどよく学べるパーツがあって、とてもいい玩具だったと思いますね。で、なぜ運転ができたかって? その話は長くなるのでまた。

Peter’s second favorite place – Dad’s 1965’s beetle.
(ピーターが2番目に好きな場所 – お父さんの1965年代のビートル)

プロフィール

ピーター・アイビー

ピーター・アイビー|ガラス作家。1969年、アメリカ・テキサス州生まれ。ロードアイランドスクールオブデザイン卒業後、独立。作品を制作しながら、大学で臨時教諭として働き、吹きガラスの仕事があればどこへでも手伝いに行った。2002年に来日し、2007年に富山県に移住。現在は住まいの隣に構えた工房「流動研究所」で作品制作を行う。

Official Website
https://www.peterivy.com/ja/