ライフスタイル

ひとり歩き/文・上白石萌歌

ひとりがたり Vol.1

2024年7月15日

ひとりがたり


photo & text: Moka Kamishiraishi
illustration: Jun Ando

みなさまこんにちは。上白石萌歌です。
この夏から『ひとりがたり』という名のエッセイをスタートします。

「1人」「一人」「独り」「ひとり」…
“ひとり”という言葉に、あなたはどんなイメージを浮かべるでしょうか。
わたしは生まれたばかりの赤ん坊のような、洗いたてのタオルのような、
まっさらで清々しい情景が真っ先に頭に浮かびます。
そしてまた、冷たい灰色の床で小さく足を抱えるような、しとしととした情景も同時に浮かびます。

どんな”ひとり”の形もまぎれもなく正しく、素晴らしいものです。
誰といたって、どこにいたって”ひとり”であり続けるのがきっと人生。せっかくならそんな”ひとり”というものがなるべく心地のよい、豊かなものであるといいよなあと常々思うのです。

わたしたちは普段、信じられないほど多くの人たちとの関わりのなかを、複雑に絡み合ったたくさんの情報のなかを、息つぎも忘れて泳ぎまくっています。
賑やかで煌びやかな現実という海を泳ぎ続けるのは、やっぱりとてつもなく疲れてしまう。
だからたまにはヒョイっと心の無人島に身を投げ出して、深呼吸することだって大切です。

この連載では、いつもわたしの心と身体をすこやかに調律してくれる、ひとりの時間の尊さについて語っていきたいと思います。
読んでくださったみなさまの”ひとり”が、より豊かで鮮やかなものになるといいな。
ということで、上白石萌歌によるひとりがたり、はじまります。


ひとり歩き

昔から散歩をするのが好きだ。
まだ日差しが新鮮なうちな早朝や、夕方の橙色の時間に家の周りや知らない土地をあてもなくぶらぶら歩くのが好き。

誰にも迷惑をかけず、お金もかからず、1番手軽に”ひとり”を吸い込むことができるのが散歩である。

散歩中はいつも、小さな発見と想像/妄想の連続でいそがしい。

すれ違う学校帰りの小学生のちょっとおかしな替え歌には幼心をくすぐられるし、
わたしの視線に気づかない猫は無防備すぎるあくびをしてるし、
路地裏で香る知らない人の家の柔軟剤の匂いからは、この先一度も交わることなく続いてゆく、その人とわたしのそれぞれの生活を思わず想像してしまう。

家にこもっていると自分のことばかりで悩み、すぐにいっぱいいっぱいになりがちだ。けれど一歩外に出れば、見知らぬ人たちの生活の息づかいを感じることができる。そのなんともいえない温かさに、ちょっとだけ救われる。

あ、なんだ、さっきソファでぐるぐる考えてたことなんて全然大したことなかったや。だってこんなにも風は気持ちいいし、みんな同じように生きてるんだし。と、頭のなかのムダな思考を丸めてポイっと捨てられるような気がするのだ。ひとりで歩くことは、自分の胸の中に渦巻くものを取り出し、静かに見つめることでもある。

なんとなくたどり着いた公園のベンチで、イヤホンをしてandymoriの「路上のフォークシンガー」を再生する。愛してやまない小山田壮平氏が、何にも心配いらないぜ、とサビで叫んでいる。ほんとそうだなー、いろいろなんとかなるか。目の前のキャッチボールする親子も楽しそうに声をあげている。頭がすっとしたので立ち上がってみる。

繰り返される日々だが、同じ日は1日たりともない。またつまずきそうになったら散歩に出かけよう。そんなことを思いながら、来た道をさっきより軽やかに歩いてゆく。

ひとこと
約2年ぶりのadieu新曲「背中」が配信中です。夏の夜のドライブのお供にぜひ。

プロフィール

ひとり歩き/文・上白石萌歌

上白石萌歌

かみしらいし・もか|2000年生まれ。鹿児島県出身。2011年、第7回「東宝シンデレラ」オーディショングランプリを受賞。12歳でドラマ『分身』(12/WOWOW)にて俳優デビュー。ミュージカル『赤毛のアン』(16)では最年少で主人公を演じた。映画『羊と鋼の森』(18/東宝)で第42回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。主な出演作にドラマ『義母と娘のブルース』(18/TBS)、『教場Ⅱ』(21/フジテレビ)、『警視庁アウトサイダー』(23/テレビ朝日)、『ペンディングトレイン-8時23分、明日 君と』(23/TBS)、『パリピ孔明』(23/フジテレビ)、『滅相も無い』(24/MBS)など。adieu名義で歌手活動も行う。

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