TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#2】エチオピアの日常食は強烈な発酵食

執筆: 『ネグラ』大澤思朗

2024年4月19日

ネグラ


photo & text: Shiro Osawa
edit: Nozomi Hasegawa

エチオピアの食事と言えば【インジェラ】という発酵食品。

Googleで検索すると予測変換ですぐに“インジェラ まずい”と出てくる、なかなか癖の強い料理として有名。テフというグルテンフリーの穀物を発酵させてクレープ状にしたもので、エチオピアでは主食。色々な種類のおかずと一緒に包んでたべる、日本での「ご飯」のようなもの。ねずみ色の生地をロール状に丸めてあるので、ネット上では”まるで雑巾”と表現されていたりもする。

もし噂が本当だとしたら、、と恐る恐る手を伸ばし食べてみると、ムムッこれは頭を整理しなければと考えてみることにした。

咀嚼した瞬間に発酵由来の強烈な酸味(知らない酸味)、クレープを思わすビジュアルからは想像つかない味覚! これは最初にフランスの郷土発酵食ガレットだと思えば想像との補正が効いて、若干理解できたなと思う。 強烈な酸味もワインを思わす酸味と考えると風味に合点がいく。 とはいえやっぱり味の特徴が強いのは強い。

色んな種類の煮込み料理(おかず)を包んで食べるのだが、どれもインジェラの味になってしまう強烈な支配力!

シュロワットという豆の煮込みだけをのせたストイックなインジェラ。

生牛肉のタルタル料理「キトフォ」を乗せたり。インジェラの上に乗るおかずは様々。

知らない味覚に出会った時に、頭の中で秒で当てはめる言葉を持っていないと表現が難しい。 とは言え、その新しい味覚との出会いを“まずい”とくくってしまうのは、もったいないと自分は思う。味覚のこじつけではなくて、味覚の調整、味覚の余白を持って楽しむと、食文化にぐんと興味が持てる。

自分たちのお気に入りのインジェラ料理は「beyaynetu(バイアイナトゥ)」というエチオピア正教のファスティング食。ファスティングといっても日本でいう絶食ではなく、動物性タンパク質をとらないもので週2回、水曜と金曜日に行われている。日常の中で食事を”制限”されるという言葉とは裏腹に、インジェラの上には野菜と豆だけで作られた色とりどりのおかずが乗せられ、何ならいつもより豪華じゃないか? と思う。

これがバイアナトゥ。

エチオピア人と水曜日に食事を共にした際、日本人向けにと気を遣ってくれて動物性のメニューを出してくれたのだけど、むしろバイアイナトゥの方が貴重で食べたいんだと言うと、みんな笑っていた。

プロフィール

大澤思朗

おおさわ・しろう|妻の麻衣子とともに、高円寺にて妄想インドカレーと越境庶民料理を提供する『ネグラ』を営む。『チリチリ酒場』という屋号で、音楽や個人商店、食、お酒などを楽しめるバザールも各地で開催。『ネグラ』の営業日はInstagram(@negura.curry)にて要確認。