ライフスタイル

【#3】モロッコの旅 隠し味

執筆: 山野アンダーソン陽子

2023年4月30日

illustration: ©︎Kuniko Nagasaki
photo & text: Yoko Andersson Yamano
edit: Yukako Kazuno

スウェーデンに帰ったら真似をしようと思った味がいくつかあった。食料雑貨店には固茹でのゆで卵が20個ほどカゴに入って売られていて、その隣には、その場ですぐに食べられるように異国情緒あふれるスパイス(クミンベース)を混ぜた塩が置かれていた。デザートに出てきた薄くスライスされたオレンジには、細かい粉末状になったシナモンがたっぷり振られて甘さが際立っていたし、ある時のランチに頼んだ焼きタコには「ホブズ」と呼ばれるモチッとしたパンが付いてきて、そのパンに付けるバターにはデイツが混ぜられていた。

小腹が空いた時や食事にはミントティーを出してもらえる。高いところから5ozほどの小さなグラスに向かって空気を含みながら注ぐ。フレッシュミントの香りと甘さがなんとも言えず強い日差しに疲れた体へ染み込んでいく。甘さが必要ない時は「砂糖抜き」といえば、さっぱりとしたミントティーを楽しむこともできるのだけど、旅の終盤「砂糖抜き」と言った私に「砂糖は自分で入れられるように隣に置いてくから」と言って出された角砂糖がグラスとほぼ同じ大きさだったことに衝撃を受けた。これを1日に何杯もなんの躊躇もなく飲んでいたとは。隠し味は隠れていた方がいいのかもしれないと薄目でミントティーを眺めた。

プロフィール

山野アンダーソン陽子

ストックホルムを拠点とするガラス作家。スウェーデンの国立美術工芸デザイン大学で修士課程を修了。北欧最古のガラス工場であるコスタ内の学校で吹きガラスの手法を学ぶ。スウェーデン、イギリス、日本などで作品を展開。2023年11月3日より広島市現代美術館、2024年1月17日より東京オペラシティ アートギャラリーで山野さん発案のプロジェクト「Glass Tableware in Still Life」の巡回展が始まる。

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