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【#2】村上春樹の落語

執筆: 髙城晶平(cero)

2023年4月15日

photo & text: Shohei Takagi(cero)
edit: Yukako Kazuno

オーディオブックを聴いたことはあるだろうか?

海外では割と古くから浸透しているようで、映画『レディー・バード』ではドライブ中にスタインベックの小説『怒りの葡萄』をカセットで聴きながら母娘で涙するというシーンがある。たしか『ファウンダー ハンバーガー帝国の秘密』でも、主人公がモーテルで自己啓発書の朗読レコードを聴くシーンがあった。

そんなオーディオブックが、現在ではサブスクの世界で拡がりを見せており、最近は僕も毎朝散歩しながら利用している。

朗読を聴くというのは、色々と新鮮な発見があって面白いのだが、なかでも興味をそそられたのは、村上春樹の作品群だった。村上春樹ともなると、朗読するナレーター陣もかなり豪華で、大森南朋、イッセー尾形、松山ケンイチ、永山瑛太、高橋一生…と、よりどりみどりである。

実際いくつか聴いてみたのだけど、当たり前ながら皆上手いし、ついついのめり込んでしまう。永山瑛太の読む『辺境・近境』はどこか長閑で心休まるし、高橋一生の『騎士団長殺し』はエロい。肝心なのは、彼らの読む村上春樹が、自分のなかの村上春樹像とずいぶん違うというところだ。それゆえ、「こんなの村上春樹じゃない!」と怒りだす人もきっといるんじゃないかと思うが、僕は今のところどれも大いに楽しんでいる。

とりわけ印象的だったのが、イッセー尾形朗読の『東京奇譚集』。不条理というか、シュールな印象さえ与える奇妙な短編集だが、イッセー尾形の読むこの作品は大変にエモい。『偶然の旅人』『ハナレイ・ベイ』なんて、クスッとくるけど泣かされるし、『品川猿』なんてほとんどイッセー尾形の一人芝居状態。村上春樹というより、落語を聴いてるような気分になる。でも、僕としてはそれが最高だった。村上春樹を落語のノリで聴けるとは、思いもよらなかったので。

と、こんな感じで役者さんの朗読にばかり焦点を絞って書いてきたけど、他にもプロのナレーターさんで面白そうなものもまだまだ沢山ありそう。今、『ブルシット・ジョブの謎』という人文書を聴いていて、ナレーターの方が大真面目に「クソどうでもいい仕事」と読み上げるたびに軽くウケています。皆さんもこの機会にぜひ、オーディオブック初めてみては⁇

プロフィール

髙城晶平(cero)

ceroのボーカル・ギター・フルート担当。2019年よりソロプロジェクト “Shohei Takagi Parallela Botanica”を始動。2020年4月8日に1st Album『Triptych』をリリースする。その他ソロ活動ではDJ、文筆など多岐に渡って活動している。5月24日にceroの新作『e o』をリリース予定。