カルチャー
【#2】フローズン・アーキテクチャ
執筆: 成定由香沙
2023年2月15日
text: Yukasa Narisada(kenchikueigakan2023)
edit: Yukako Kazuno
2023年2月末に開催される映画祭『建築映画館』では建築に関する映画19作品が「都市」「構造」「図面」「建築と人物」「アーカイブ」の5つのテーマに分けて上映される。私は今回プログラマーとして本映画祭に参加し、「構造」を担当している。ここでの「構造」は「構造映画」の「構造」だ。「構造映画」を本映画祭では「ショット構成や物質的な支持体であるメディア(フィルムやビデオテープ)など、映画を成立させるための構造それ自体を主題とした映画を指す言葉である」と定義している。
ところで、建築映像作家としてもいくつかの作品を撮っている私は常々、「果たして映像は建築の”何を”撮っているのだろうか?」と思う。例えば人々がそこで座ったり、立ったり、階段を登って歩いて、窓を開けてドアを開けて… 、特に驚きもないままに、作り出された「生活」がそこにあったりする。はたまたドローンを使って通常では知り得ないシークエンスを見ることだってできる。でもでも、どうしてそんなことが知りたいんだろう? 自分の身体が可能な知覚体験を超えた擬似的な何かは、建築空間となんの関係があるのだろうか。
話を戻すと、「構造主義」という言葉がソシュールの影響を受けて現代思想の中に出てきたのは1960年代から70年代にかけて。ちょうどその頃、構造映画の代表作ともされるマイケル・スノウによる『波長』(1967)は作られた。『波長』はある部屋の一室にあるロフトから、24メートル先の壁にかけられた写真まで45分かけてズームしていく。視覚の本質、感覚を通して経験される物質世界、視覚と音の関係といった、音楽家、映画監督、画家、写真家などさまざまな顔を持つスノウの主要なテーマの多くについて検証しているとされている。
私は『波長』を見て、この映画は建築を映し出している、と強く感じた。45分の間に起こるさまざまな出来事によってズームは中断されるが、カメラはそれを見ていないように見える。ただひたすらに壁にかけられた写真に向かってゆくだけなのだ。私たちの眼としてロフトから始まったズームは段々と私たちから乖離していく。建築がそこで静止しているように、出来事や音、音楽に依らないカメラもまた静物として建築に向き合っている。
本映画祭では、45分間の『波長』の素材を重ね合わせることで上映時間を1/3とした『WVLNT (“Wavelength For Those Who Don’t Have the Time”)』(2003)が、『SSHTOORRTY』(2005)、『The Living Room』(2000)とともに、マイケル・スノウ作品集として上映される。ぜひ『波長』としての45分間を想像しながら観て欲しい。
プロフィール
建築映画館2023
建築をテーマとした映画祭。2/23〜2/26、アンスティチュ・フランセ東京にて開催。今年度は「構造」「建築と人物」「図面」「アーカイブ」「都市」の5つのテーマで作品を紹介。上映に併せ、映画・建築双方の分野からゲストを招きトークショーも開催予定。映画館という建築物に集うことで、映画のなかの建築をフレームの外へ拡張させ、実際の都市・建築の議論へフィードバックすることを目指している。
〈短編セレクションA〉マイケル・スノウ作品集
日時:2月23日(木・祝) 19:00〜20:00
チケット完売。その他の上映作品の販売状況については公式HPに記載。
Twitter
https://twitter.com/KenchikuEigakan
Official WebSite
http://architectureincinema.com/
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