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【#1】しじゅうのてならい

執筆: 松尾諭

2023年2月10日

illustration & text: Satoru Matsuo
edit: Yukako Kazuno

 二冊目となる小説の執筆が終わり、脳味噌が出涸らしのようになってしまったところに連載の話をいただいた。書くことなんて思いつかないし、そもそも文章を書く気にもならない、という気持ちでいっぱいだったが、ここで歩みを止めてしまう事は、中年に差し掛かっても尚成長したいと思う欲求に反することなのである。じゃあ引き受けてみようかと重い腰を上げてはみたが「題材はご自由に」と言われると何を書いて良いのかを考えねばならず、引き受けてしまったことを後悔しながら、舞台『しびれ雲』が新潟にて大千穐楽を迎えた。その劇中に「四十の手習いだ」という台詞がある。本番中、その台詞をきっかけに出番に備えて舞台袖へと移動するのだが、それまで数え切れない程聞き、以後もう聞くこともないであろうその台詞を耳にしてはたと思いついた。

しじゅうのてならい

 四十という年齢は誰が何と言おうとオッサンな訳で、ついに自身もその年齢に達してしまった事に侘しさを感じるかと思ったが、過ぎてみると三十九と変わる事もあまりなく、むしろ数字としてはキリが良い。それに考えようによれば、二回目の成人式だと思えなくもないので、それまでやってこなかった事に手を出すことにした。あくまでも手を出す、程度の事で挑戦というほど大それた話ではない。手習いである。 

 そもそもモノを書くようになったのも、そんな考えがあったからで、たまたまきっかけを頂いたので、手を出してみたら存外好評になり連載となり、書籍化してドラマ化するという自分でも信じられないような話なのだが、これは他所でも多く話をしているのでここでは割愛する。 

 という訳でまた別の手習いの話をしたいのだが続きは次回。予告だけしておくと、次回はコンテンポラリーダンスのお話。特に自慢になるような話でもないので、ご期待は乞いません。

プロフィール

松尾諭

まつお・さとる | 1975年、兵庫県尼崎市生まれ。役者を志して上京し、2000年映画『忘れられぬ人々』で俳優としてデビュー。オーディションで『SP 警視庁警備部警護課第四係』のメインキャスト役に抜擢され、注目を集める。2020年初の著作、「自伝風」エッセイ『拾われた男』を刊行。ディズニープラス/NHKでドラマ化される。出演映画作品に『テルマエ・ロマエ』『進撃の巨人』『シン・ゴジラ』『地獄の花園』、ドラマ作品に『最後から二番目の恋』『デート』『ひよっこ』『わろてんか』『舞いあがれ!』、舞台作品に『アルトゥロ・ウイの興隆』『しびれ雲』など多数出演。