ライフスタイル

【#1】提案

2022年12月11日

 山の血管だと思っていたものは木の根っこだったり、空に濃紺を貼り付ける画鋲だと思っていたものは金星だったり、海の彼方に聳え立つ山脈だと思っていたものは日に照らされた雲だったりしなくもないですが、新調したガラケーの側面になんか不思議なゴム質の部分があるなあと思っていたものは、小さい扉でした。あの小さい扉を開けた時、明るい世界に飛び出してきたものこそ、SDカードだったのです。

 スマートフォンが主流となった昨今、SDカードは出席簿にも載せてもらえないくらいの扱いを受けているように思ってしまいます。

「よし、今日は欠席なしやな」「先生、まだ名前呼ばれていませんが」「誰や、おまえ」

 全国の祭には、ひっそりとその姿を消していくものもあるそうです。地方の更なる過疎化、若者の田舎離れによって、美しい伝統が時代の地層に埋もれようとしています。しかし、祭にはその地層を破壊する迫力があると思っています。破壊して必ず、聞いているだけで恥ずかしくなるようないきいきとした旋律を降らしてくれるのだと信じています。地方の小学校はどんな時代であれいきいきとしていなければならないんだと、自身の記録細胞に刻んでいます。

 SDカードは、もうやめますか。スマートフォンが軸になった時代だからといって、SDカードはやめてしまいますか。いや、やりましょうよ。個人的な思考かもしれませんが、やった方がいいですよ。スマートフォンに、あんな夢のようなことができるというのでしょうか。いや、できませんよ。手でぐるぐる回す車の窓は、エンジンが止まった瞬間に翼を得て、パワーウィンドウを遥か超えて便利の山頂に君臨します。とどのつまり、スマートフォンの側面に、SDカードが鎮まる扉を再構築しようと提言したいのです。

 SDカードは、果てしない機能を持っていました。エロい画像をそっと閉じ込めてくれていたのです。どこかで見つけてきたエロい画像を、密かに保存してくれていたのです。そして、それを必要とした時だけSDカードはその能力を発揮し、あの時代の象徴として見事に掲げられた液晶画面に、華々しく蘇らせてくれたのです。

 もしスマートフォンにSDカードを入れるところがついていたらと考えた一日は、ゆっくり明日の暖簾に腕を押しています。ちんちんにSDカードを入れるところがあって、亀頭に画像が映ってもかまいません。

プロフィール

哲夫(笑い飯)

1974年、奈良県生まれ。芸人。2000年に西田幸治とお笑いコンビ「笑い飯」を結成し、2010年「M-1グランプリ」の王者に。MBSラジオ「笑い飯哲夫のニュースシャワー」、朝日放送ラジオ「笑い飯哲夫のしんぶん教室」、奈良テレビ「笑い飯哲夫のおもしろ社寺めぐり」など多方面で活躍中。

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