カルチャー

【#4】音のいい店ジャパンツアー

2022年11月7日

以前、岩手県一関市にある聖地ともいえるジャズ喫茶〈BASIE(ベイシー)〉に行ったときのこと。店長の菅原正二さんが話していたことが印象に残っている。

海外にある音楽を聞かせる店はライブが中心。ベイシーは1970年のオープン以来ずっと、毎日、ジャズレコードをかけている。そんなお店、ほかにはないのではないか。もしかすると世界一レコードをかけているのではないか、と。

たしかに。ジャズ愛好家であっても、朝から晩まで聞いているわけにはいかない。だがベイシーはオープンしている時間は、ほとんどジャズのレコードが流れているわけだ。

photo: 深水敬介

ジャズ喫茶、ロックバー、ミュージックバーなど、ライブではなくレコードやCDをいい音響で聞くリスニングバーと呼ばれる場所。実はこれは日本独特の文化である。最近では、日本発祥のこの文化が世界に広まり、欧米などでリスニングバーという形態が増えていると、何かの新聞で読んだ。

もしかしたら「ジャズ喫茶巡礼しています」なんてインバウンド旅行者もいるかもしれない。日本のリスニングバー文化は、世界を魅了するものになっているのだ。

そういえば、かつて渋谷の宇田川町界隈のレコード屋には、世界で一番「埋蔵量」があったという。レコード針の世界シェアの約9割は、〈ナガオカ〉という日本の企業が握っている。なんだか日本のレコード文化ってすごい。

photo: 深水敬介

出張などで全国の都市に行くときに調べてみると、まちにひとつくらいはリスニングバーがあったりする。例えば。

金沢市のジャズ喫茶・バーの〈穆然(ぼくねん)〉。マスターは「今ではジャズミュージシャンのほとんどが死んじゃって、レコードで聴くしかない。だから、とにかくいい音で聴きたいから工夫するんだ」と音響にこだわる。

photo: 深水敬介

富山市のジャズバー〈ハナミズキノヘヤ〉では、JBLの名機「エベレスト」が“空気”を鳴らしている。スマートな店主と豪傑なお父さんのやりとりも絶妙な、音楽への愛にあふれたお店だ。

photo: 深水敬介

下田市の〈soul bar土佐屋〉は東京から有名なDJが訪れてきたりと、店主のソウル人脈がすごい。レコードはソウルだけで3万枚、ほかも合計したら5万枚あるそう。本人は「踊らせないDJ」というが、つなぎは絶妙。

photo: 深水敬介

浜松市のジャズ喫茶〈トゥルネラパージュ〉は、〈avangarde trio〉+〈6 basshorn〉というアート作品のようなスピーカーシステムが圧倒的。スピーカーに合わせて店内を設計したらしい。変なマッサージより、よほどセラピーになると話題だ。

photo: 深水敬介

どこも個性があっておもしろい。レコードをいい音で聞かせることにこだわった発展は、繊細さとオタク感にあふれる日本らしく、世界に誇れる文化だと思う。

プロフィール

コロカル編集部(大草朋宏)

コロカル編集部|2012年、日本の「地域」をテーマに始まったウェブマガジン。「ローカルは楽しい! ローカルはカッコいい! ローカルは進化している!」という視点を、集合的なかたちにして日々発信。すぐれた実践で課題を乗り越え、新しい生き方、働きかたを見つけて暮らす人やコミュニティの存在とそのストーリーを伝えている。

Officilal Website
https://colocal.jp/

おおくさ・ともひろ|1975年、千葉県生まれ。フリーランスの編集者・ライターとして活動しながら、コロカル編集部に所属。昨年、金沢に移住し、ローカルでの活動も模索中。