カルチャー

【#1】ローカルに拠点を持つ働きかた

2022年10月17日

日本のローカルにおいて、さまざまなものを取り上げるマガジンハウスのウェブマガジン『colocal』編集部、副編集長の大草です。

僕は石川県金沢市に住んでいて、そこで仕事をしている。ご存じの人は「オヤッ?」と思うかもしれない。マガジンハウスは東銀座にあり、コロカル編集部もそこにある。しかも僕は社員ではなくフリーランスだ。

そんな人間が、いち編集部の副編集長を努めてもいい時代になった。金沢に移住したのは昨年(2021年)4月。東京と金沢を往復することを視野に入れて、「東京の拠点をどうしようかなあ」なんてぼんやり考えていたが、リモートワークのツールの進化により、仕事は東京に行かなくても済むようになった。しかもコロカルの取材先の多くはローカルだ。

正直いって、東京にそこまで用事がない。

移住や二拠点生活など、ローカルに拠点を移すという働き方は、僕の周辺でもかなり増えている。まだフォトグラファーやグラフィックデザイナーなど会社員ではない人、起業した人、仕事が単発の人、オンラインで仕事が可能な人などが多いのは事実だが、どんどん東京から離れている印象だ。

人気は山梨や長野、西湘(神奈川)あたりか。どちらかといえば、山方面が多い。家のリノベーションを時間をかけて楽しんだり、家庭菜園とは呼べないレベルの広い農地で野菜を育てたり。

ここ10年ほどで地方移住が人気になり、それと比例するように「田舎暮らしはそんなにヒマでもないし、簡単じゃないよ」というアンチな声も増えた。その声は理解できるが、僕が知る限りは、みんな無理のない範囲で楽しんでいるし、ネガティブな要素を聞くことは少ない。

コロカルでも、そんな事例をたくさん紹介している。

例えば〈ダブルフェイマス〉というバンドのメンバーであり、〈グッドネイバーズ・ジャンボリー〉というフェスを鹿児島で開催している坂口修一郎さんは、東京と故郷の鹿児島を行き来する生活(をしていたが、最近、鹿児島に完全移住)。廃校再生や地域課題にも積極的に取り組んでいる。

建築家の谷尻誠さんは、広島と東京を週1回往復しながら、話題の建築や事業をたくさん手がけている。曰く「仕事の本質は、“どこで活動するか”より“いいものをつくる”ことにある」と。

photo:永禮賢

ファッションデザイナーのスズキタカユキさんは、手つかずの自然が残る北海道・根室と東京という正反対の性格をもつエリアで二拠点生活をしている。環境の変化を起こすことによって可能性を広げているという。

photo:永禮賢

神奈川県の真鶴で釣りに興じながら、都会のど真ん中のお店をプロデュースをしている〈SON OF THE CHEESE〉の山本海人さん。彼は仕事の取引相手を、東京から真鶴に呼んで打ち合わせをするという逆転現象を起こしている。

photo:加治枝里子

こうした働きかたは、社会に受け入れられつつある。というよりも、すでに「ローカルに拠点を持って働く」ほうがおもしろそうに見えてしまう。

トレンドや最先端は、今でも東京にあると思う。しかし課題感やユニークさ、オリジナリティはどうか? 視点を変えれば価値観も変わる。

選択肢は増えた。働き方はもっと自由でいい。

プロフィール

コロカル編集部(大草朋宏)

コロカル編集部|2012年、日本の「地域」をテーマに始まったウェブマガジン。「ローカルは楽しい! ローカルはカッコいい! ローカルは進化している!」という視点を、集合的なかたちにして日々発信。すぐれた実践で課題を乗り越え、新しい生き方、働きかたを見つけて暮らす人やコミュニティの存在とそのストーリーを伝えている。

Officilal Website
https://colocal.jp/

おおくさ・ともひろ|1975年、千葉県生まれ。フリーランスの編集者・ライターとして活動しながら、コロカル編集部に所属。昨年、金沢に移住し、ローカルでの活動も模索中。