【#4】玄関観察記/ハクビシン挟まる
2021.05.05(Wed)
photo & text: Kota Sake
edit: Yu Kokubu

ここは東京、中野にある我が家の玄関先。
毎日いろんな生きものがやってくる。
「ハクビシンの頭がネズミ捕りに挟まった」
妻からLINEが入った。
天井裏を走りまわるネズミが鬱陶しく、箱型の罠を仕掛けたのが2週間前。深夜すぎに帰宅すると家中に獣の悲鳴が響いていた。
ガタガタと動いている音は、ネズミ捕りを頭から外そうとしているハクビシンに違いないと僕らは確信した。天井裏に入るのは難しいので、業者を手配することにし、とりあえず寝ることにしたが、これが辛かった。目をつむると拷問をうけているような声が聞こえてくるのだ。ネズミ捕りが頭に挟まり苦しんでいるハクビシンの姿が頭をよぎる。布団を被り、心の中で許しを乞いながら、眠りに落ちた。
朝、区が手配した業者が来た頃には、もう声はしなくなっていた。作業員が見つけたのは何も挟まっていないネズミ捕りだった。懐中電灯でいくら探してもハクビシンの姿はおろか形跡すら見つからなかった。僕らは狐につままれたような気分だった。
仕方なく作業員を見送りに外に出た時、妻が「あっ!」と声を漏らした。雨樋から長い尻尾がだらりと垂れていたのだ。
ハクビシンはネズミ捕りではなく、瓦と雨樋の間に挟まっていたのだ。棒で瓦を持ち上げるとハクビシンは地面に飛び降り、キィィィーと叫びながら凄まじい勢いで走り去っていった。
酒 航太
1973年、東京都生まれ。写真家。新井薬師前にあるギャラリー&バー『スタジオ35分』主宰。東京都中野区にある自宅の庭に遊びにくる動物を観察中。(POPEYE Webオープン時からトップ画面の小窓にいる動物たちは酒さんのお庭への来客者。)
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