【#3】 玄関観察記/見出し
2021.04.28(Wed)
photo & text: Kota Sake
edit: Yu Kokubu

ここは東京、中野にある我が家の玄関先。
毎日いろんな生きものがやってくる。
しばらく庭に設置したままになっていたトレイルカメラ(動物や人の熱を感知し自動で撮影できる)をチェックしてみると、猫や小鳥が水を求めて睡蓮鉢に来ている写真がよく撮れている。周囲を警戒しながら水を飲んでいる猫や水浴びを繰りかえす鳥たちの写真を一枚一枚見ているだけでほっこりしてくる。しかし、撮影された写真を送り進めると突如見慣れないものの姿が現れた。
スリムな体に長い尻尾、額から鼻にかけての白いライン。
ハクビシンである。
ハクビシンは自由気ままに睡蓮鉢のまわりをウロチョロしていた。
子供のころから、動物が町に現れたというニュースが大好きだ。本来いるはずのない場所に動物がいるだけで人々の日常が少し騒々しくなるのが、こう言っちゃなんだが、とてもおもしろい。
そして、それらのニュースには、いつも素晴らしい見出しがつく。
「住宅街にシカ 警察官らが捕獲大作戦」
光景がまざまざと浮かんでくる。新興住宅街の一角で警察官たちがネットを持って鹿を追い込んでいる。いざ捕獲というところで、鹿はぴょーんとネットを軽々と飛び越えていく。
「動物園で金網切断 サル70匹逃走」
これはもう映画の1シーンだ。ついにこの日が来た。金網は切られ、自由への扉は開かれた。猿たちは次々と檻から脱走していく。解放された猿たちは夕焼けに染まる山へ消えてゆくのだ。
「人を恐れない 新世代クマか」
21世紀型のシン・クマである。クマは人目を気にせず、納屋で食料を探している。威嚇用の花火の音にも動じない。しかし、最後には地元の猟友会が出て来て発砲。射殺されてしまうのであった。
とまあ、見出しだけで視覚やその状況を想像させるのはもはや短型詩や俳句の領域だ。
ちなみに鹿は秋の季語で熊は冬の季語。猿は季語じゃないけど、猿酒なんて言う面白い秋の季語もある。
話が脱線してしまいました。
という事で、次回は「ハクビシン挟まる」です。
酒 航太
1973年、東京都生まれ。写真家。新井薬師前にあるギャラリー&バー『スタジオ35分』主宰。東京都中野区にある自宅の庭に遊びにくる動物を観察中。(POPEYE Webオープン時からトップ画面の小窓にいる動物たちは酒さんのお庭への来客者。)