TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム
LIFESTYLE

【#4】真夏の夜の密かな楽しみ

2022.08.04(Thu)


photo & text: Yoshizumi Ishihara
edit: Yukako Kazuno

 すっかり陽が落ちても、街はちっとも涼しくなりはしない。夜風を期待して窓を開け放してみたものの、庭木の葉っぱは蒸した空気に包み込まれてピクリとも動かない。

 仕方がないので扇風機の風量を強にして体にぶつける。扇風機の首振りを止めて風を独り占めすれば、かろうじて額に汗が滲まずに済む。

 「我慢をせずに、クーラーを積極的に活用しましょう」とテレビから語り掛けるのが僕の役目だ。その実、我が家の夏の夜は過酷かもしれない。クーラーは体の芯を冷やすから、体に悪い。“心頭を滅却すれば、火もまた涼し”。暑さは我慢すればなんとかなる。僕は典型的な昭和の人間のようだ。

 額から汗が噴き出て、テレビを観ようにも画面に集中できない。テレビを諦めて風呂に入ろうかと思ったところで気が付いた。窓外のレッドロビンの生垣の葉っぱ微かに上下に揺れている。一つ、二つ、三つと次々に葉っぱが揺れ始めると、全部の葉っぱが、不揃いなリズムで揺れ出した。

雨粒に濡れて、草木も蘇る。

 頬を湿った風が撫でたかと思ったら、サーッと雨粒が葉っぱに当たる音が聞こえて来た。酷暑の街に夕立がやって来たのだ。

 真夏の東京の夜。遥か遠くに稲光を目にすることがある。関東平野の山沿いのどこかが雷雨に見舞われている証だ。どうかその雨雲が、僕が暮らす街にもやって来てくれないかと都会の明るい夜空を恨めしく見上げることがある。

 日本列島全体がすっぽりと太平洋高気圧に覆われてしまうと夕立は期待できない。太平洋高気圧が東に片寄り、夏本番が始まる直前の夜のひととき、僕の住む街は夕立に見舞われた。

 サーッと細い線に降り出した雨は、徐々に音階を下げるようにザーッと低い音に変わり、すぐに本降りの雨となった。大粒の雨に打たれ、大きく葉を揺らす生垣は、それでもどこか楽し気に見える。なるほど、夏の雨に打たれた楽しい経験が僕にもある。

 空のどこかで雷鳴が轟いた。街が水しぶきで煙るほどの雨を期待したが、雷雲はほどなく街から遠のいてしまったようだ。ほんの10分もすると街はいつもの変わらぬ真夏の夜に戻ってしまった。

 夏の夜の雨を、僕はいつも心待ちにしている。

プロフィール

石原良純

いしはら・よしずみ|1962年、神奈川県生まれ。俳優、気象予報士、司会者・MC、キャスター。

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Official Website
http://www.ishihara-yoshizumi.com/index.html

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