TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム
LIFESTYLE

【#3】台風の空を眺める

2022.07.28(Thu)


photo & text: Yoshizumi Ishihara
edit: Yukako Kazuno

 台風は、明日未明には関東地方に上陸します。

 そんなニュースを耳にすると、慌ただしく雨風に備える大人達を尻目に子供の僕たちは、ワクワクと心をときめかせたものだ。

 台風は遥か南の海上からやって来る。マリアナ沖、フィリピン東海上、そんな南の海の名前を聞くと、海はどんなに青いのだろうか、満天の星空の中に南十字星が見えるのだろうか、と台風の生まれ故郷を想像した。

やがて街全体が豪雨にけむる。

 遥か台風の故郷から離れた都会に暮らす僕が、台風の来襲をまず感じるのは、普段とは違う生温かい風。気味の悪い南風に気持ちがザワついて、ふと空を見上げるとその風に乗ってボロ雑巾のような黒い雲の破片が、東の空の一番低い所を足早に駆けていくのを発見する。その姿は時代劇に登場する盗人そのものだ。それも一番下の手下。「ありゃ、見つかっちまった」と言いながら、間抜けな手下は北の空へ慌てて逃げて行く。

 怪しい雲を見かけたら、それは天気が崩れる前兆だ。見慣れぬ雲を怪しいと見抜く野生の勘は、都会に暮らす僕等にも、幾らかは残っているものなのだ。

 台風が近づくにつれ、次第に風が強まってくる。映画の効果音さながらに、ヒューヒューと電線が風を切る音が聞こえてくると僕の胸は更に高まった。

 やがて足早に空を駆ける雲が、雨粒をバラ撒き始める。台風の周辺を取り巻く、アウターバンドと呼ばれる雲の帯だ。雨を撒き散らしては、ちょっと青空がのぞいたかと思うとまた次の雲が雨を降らせる。だんだんと雨雲は厚くなり、最後にはびっしりと空一面を覆い尽くす。いよいよ台風本体の雲の渦の到来だ。

 強風が街路樹を大きく揺らし、大粒の雨が窓ガラスを叩きつけ始める。こうなったら僕らは息を凝らして住処でじっとしている他はない。雨も風も数時間我慢すれば済むことなのだから。

 自分の暮らす街に、台風がやって来たら、一日中ぼんやりと空を眺めることをお勧めする。東、北、西、南風と台風が進むにつれ風向きが変わり、雲の様々な表情を楽しめる。台風が巨大な渦巻きだということを実感できる。

 台風もまた、日本の夏に欠かせない一大イベントなのだ。楽しまなくてはもったいない。もちろん、身の安全を確保してからね。

プロフィール

石原良純

いしはら・よしずみ|1962年、神奈川県生まれ。俳優、気象予報士、司会者・MC、キャスター。

Instagram
https://www.instagram.com/yoyoshizumi/

Official Website
http://www.ishihara-yoshizumi.com/index.html
SHARE: