ライフスタイル

【#3】他人について – 人と距離を取るためのとんかつ –

2022年7月29日

趣味がなく飽きっぽく音楽以外何も続かない私は、趣味がほしいとコロナ禍で改めて考えた。そこで、いつでも胸をときめかせてしまう食べ物『とんかつ』を色んなお店に食べに行くこと、その名も『とん活』を趣味にすることにしました。

自宅にあった『東京とんかつ会議』という本をみながら、紹介されているお店にとにかく食べにいく。普段行かない街にでるときなんか、わくわくしながらその街のとんかつ屋を調べていて、本来の目的はどうでもよくなってしまう。『とん活』のためにわざわざ電車に乗り、食事を終えてハッピーな気持ちで帰る。ただこれだけで自分の新しい世界が拓けたような気がした。美味しいとんかつ屋さんは、ご飯、キャベツの千切り、味噌汁、漬物どれもが美味しい。いろいろ食べているうちに自分の好みのとんかつもわかってきた。

私好みのとんかつは茶色くカラッと揚がった、オールドスタイルのとんかつ。厚みはそんなになくて良い、肉に火がしっかり通っているのが好き。今の流行なのだろうか、高級豚肉を使って予熱でピンク色の挙げ具合にしているお店が多くて少しさみしい。

一番好きなお店は、荻窪のたつみ亭。ここのとんかつは目黒の名店『とんき』の流れを組んでいるお店で、とんかつの揚げ方や切り方、味噌汁の具に大葉が入っているところもとんき流か。一口食べるとふわっとラードが香り、食感も良く、肉の油が甘い。何より普段でも行きやすい価格なところが最高。

荻窪のたつみ亭のとんかつ

そして、これは他のお店にも言えることなのですが、とんかつはランチメニューで食べるよりも、夜の定食メニューで食べることをおすすめします。ランチはグラム数が少なく火の通り方も変わってしまうため、通常の大きさのとんかつを食べるほうが美味しいことが多いんです。

とんかつは万人に受ける食べ物なので、話題性もバッチリ。最近どうと聞かれても答えられなかった私も『とん活』を始めてから人との会話が楽しめるようになりました。ネットに書いてしまうと5秒で終わってしまう情報なのでネットにはほとんど載せません。会った人に話すネタとしてとっておくのです。とんかつ屋は一人で行きやすいこともポイントで、美味しい料理は一人で食べても美味しい。誰でも1,600円で幸せを手に入れることができるのです。

時間がとりやすい人や孤独を感じている人には自炊もおすすめ。食べたい物のレシピをネットで調べたら、買い物に出かけて調理して、食べ終わったらお腹いっぱいですぐに眠くなるでしょう。これだけで何かやった気になればいいのです。片付けは調理中にこまめにやるのがポイントで、食後に洗うものを限りなく減らすことで、次の食事も料理をする気になる。レシピ通りに作って火加減に気をつければ、ほとんど失敗することはありません。

一人の時間を充実させることがいい休息になっています。人と関わることに疲れた時は好きなものを食べに行ったり作ったりする。とんかつと自炊のおかげで、他人にも優しくできそうだ。

プロフィール

松井文

まつい・あや|1989年、神奈川県生まれ。何げない情景から、人と人との関係性を鮮やかに描き出すシンガーソングライター。大胆なのに繊細、頑固かと思えば軽やかで、そっけないのに愛が深い。嘘の言えないその歌で、聴く人に確かな足跡を残す。平成元年、横浜生まれ。2012年、1stアルバム『あこがれ』をリリース。その後、折坂悠太、夜久一とともにレーベル&ユニット「のろしレコード」を立ち上げ話題に。初めての7inchシングル『NOT MY DAY』をきっかけに、2022年からバンド「松井文と他人」を本格始動した。

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