カルチャー
クソみたいな世界を生き抜くためのパンク的読書。Vol.7
紹介書籍 『気流の鳴る音 交響するコミューン』
2022年7月15日
text: Densuke Onodera
edit: Yu Kokubu
メイキングマイロードして、おまえはおまえの踊りをおどれ
セックスピストルズが叫んだ「ノーフューチャー」という言葉に象徴されるように、パンクスは未来を否定する。将来の夢とか目標といった類いのものを持たないし、持てない。その変わりに、いまここで、いまこの瞬間を生きる。いまここの絶望を発散し、いまこの瞬間の快楽を享受する。
パンク風の格好をしてノーフューチャー!と叫んでおきながら「五年後に武道館のステージに立つために逆算して、二年後に自主で1stアルバムをリリースしてスマッシュヒットを記録し、三年後にはメジャーから2ndアルバムをリリースしよう。そのためにコツコツ貯金をしよう。お酒は控えて適度に運動しよう」みたいなことを楽屋で話すパンクバンドは見たことがない。
一方で、社会にでると実現したい未来を思い描き、そこから逆算して計画的に生きるという考え方は一般的だ。私がかつて就職した先では「自分の五年後、十年後のあるべき姿をイメージし、キャリアプランとライフプランを設計せよ」みたいな研修があった。どうにも筆が進まず、隣の人をカンニングすると「三年後に結婚、五年後に第一子誕生、十年後に昇進してマイホーム購入」みたいな典型的なプランをスラスラ書いていた。クソつまんな。と、思いつつ真似して適当なライフプランを書き上げて提出した。
未来を否定していまを生きるパンクスと、未来から逆算していまを生きる社会人。
当時の私はパンクスに憧れていたので、くだらんライフプランよりいまこの瞬間を楽しむべきだと息巻いていたが、やがて着実に人生を歩む周囲と比べて気遅れを感じ始め、無計画に生きてきた自分を呪う。「あの頃はよかったなぁ」みたいな感じで過去を懐かしみつつ、ノーフューチャーを感じていた時に『気流の鳴る音』を読んで魂が震えた。なぜかと言えば、未来から逆算していまを生きるのではなく、パンクスのように「いまここでいまこの瞬間を生きろ」という著者のメッセージを勝手に受け取ったからだ。
本書の著者はパンクのレジェンドではなく、東大名誉教授として功績を残し今年亡くなった社会学者のレジェンド見田宗介で、彼が三十代後半の頃に真木悠介の筆名で書いたものだ。
本書のテーマを端的に言うと「この社会で人間はどう生きるべきか」で、アメリカ原住民の思想と生き方をヒントに、著者は自分なりの思想を構築していく。その過程を読むことで、読者は自分が「未来」や「目標」に囚われ、「意味」や「成果」を追い求め、いまこの瞬間に心が向いていないことに気付かされる。
「たとえばおまえだ。おまえは幽霊なのさ」(P.150)
まるで北斗の拳の台詞みたいなこの言葉は、アメリカ原住民が現代を生きる学者に対して放った言葉だ。なぜこのように言ったかといえば、現代を生きる者たちが「いまここに生きていない」からだ。つまり、「成果」を追い求めるために行動し、「意味」を見つけるために追求し、「目標」を達成するために生活することで、人々の意識は未来へ向かい、いまここに魂が無いからだ。
十年後のあるべき姿から逆算していまを生きようとするのは、現在を未来に隷属させるような生き方だ。いつまでたっても現在は未来に負け続けて輝かない。一方で「あの頃は楽しかったなぁ」なんて思い出に浸り続けているのもまた、現在が過去に負け続けて輝かない。
著者は本書の中で「いかに生きるべきか」に思想を巡らせた最後にこう綴る。
「われわれとしてはただ綽々と、過程のいっさいの苦悩を豊饒に享受しながら、つかのまの陽光のようにきらめくわれわれの「時」を生きつくすのみである」(P.227)
いまがクソみたいならそれすら磨いて輝かせ、未来がクソみたいならノーフューチャーなまま、この瞬間に輝くいまを積み重ねて生きていけ、ということだな。心の中に備長炭みたく静かで熱い火が灯った。
綽々といまを生きて行くために、何を持って生きようか。夢を持つ? お金を持つ? マイホームを持つ? アメリカ原住民が重視する「持つこと」は以下の二つだそうだ。
「一つは自分の歩く道をもつこと、もう一つは自分の踊りをもつこと」(P.177)
メイキング・マイ・ロード。おまえはおまえの踊りをおどれ。
アメリカ原住民が残した言葉と、パンクのレジェンド達が残した言葉がリンクした。
紹介書籍
気流の鳴る音 交響するコミューン
著:真木悠介
出版社:筑摩書房
発行年月:2003年3月
プロフィール
小野寺伝助
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