ライフスタイル
【#1】江東区の製本会社からこんにちは!
2022年5月10日
photo & text: Tomoko Tabuchi
edit: Yukako Kazuno
中小企業の一社員が書くTOWN TALKコラム。
篠原紙工は江東区大島の住宅街にある小さな製本工場を拠点に、数々の個性溢れるユニークな本を作り出しています。製本とは、主に本の「形」を作る部分のお仕事。印刷された紙を切って、折って、綴じる。その他にも本のデザインによっては様々な加工もします。篠原紙工はお客さんとじっくり話し合い、こちらからもアイデアを提案しながら制作現場のメンバーと一緒になり、皆で丁寧に本を作ることを大切にしているのですが、このような社風になるまでには、紆余曲折、数々のドラマがありました…。今回は、そんな会社の変化とその渦を作った私自身のことについて、少し書かせていただきますね。
私が入社した約8年前、社員は25名以上いて、当時の仕事は下請け的な仕事も多く、折り込み広告やチラシ、DM等々、機械も一日中回っていました。しかし、徐々にデザイン・アート本などコンセプトがしっかりし、制作に込める想いが深い案件や複雑な装丁の仕事が増えるにつれ、目の前の仕事だけに集中し、数量をこなす、という感じの社内の古いマインドでは、複雑な案件をきめ細かくカバーすることが厳しくなっていきました。
篠原紙工としては、「製本のことならなんでも請け負います!」という時代の良さも経験しましたが、時と共に考え方も変化し、製本を通して心で人と繋がって仕事をすることの楽しさや喜びを広げられる会社になりたいと思うようになりました。そのため、案件数や金額よりも作品に込める想いや制作に関わる人々を大切に、仕事案件の内容によりフォーカスする会社へシフトしていきたかったのです。
その理想を目指すために、社内の仲間同士としてはどうありたいか、どんな関係性を求めるのか、どういう働き方が必要か、という会社側の意志を声に出し、社員と話し合うようにしました。すると、出てくるのは、不満や違和感、新しいことへの拒絶。社内では波風が立っていたようですが、それがきっかけで変化を成し遂げる人、会社を去る人、良くも悪くもそれぞれの決断から、互いに次のステップに進み、現在に至りました。
…と、駆け足で篠原紙工のことを説明しましたが、私自身のことも少し。
私は2014年にスコットランドでの海外生活を終え、日本に帰国し、偶然の流れから篠原紙工に入社しました。しかし、まさか下町の製本会社で先に述べたような、社内整備や変化の渦を作り出す存在になるとは想像もしませんでした。人生ってどこでどうなるかわからないものですね。ただ、過去振り返ると昔から自分が感じる違和感には敏感で、「自分はどうしたいか」「どう在りたいか」というような感じのことは自問自答して、心を常に微調整していたようにも思います。もしかしたら、その積み重ねてきた「問い力」と「受け止め力」みたいなものが、会社という組織にもなんらか役立ったのかもしれません。
意識、感情、心、のような目に見えないことは、周囲の目や常識にとらわれすぎていると、いとも簡単に、置き忘れられてしまいます。目の前の出来事に対して心に浮かぶ違和感や不満は、実はその置き忘れた自分の心を気づかせてくれるサインであることが多い気がします。でも、自分のことをよくわかっていないと、その言葉にできない嫌な気持ちの正体が何なのかよく分からないから、原因を分かりやすい外部に探してしまう。会社と自分と向き合いながらそんな気づきもたくさんありました。
篠原紙工に入社して今年で8年。「まずは、自分自身と仲良くする。」ということをよく考えます。迷子になりがちな自分の意識や心の手綱をしっかり握り、自分と向き合うことを始めると、行動や決断する勇気が湧きやすくなると思うのです。篠原紙工の内部を変えるきっかけが作れたのも、結局私はどうしたいのか、どう働きたいのか、そのためにはどう全体を心地よく巻き込めるのか、と自分に聞いて、行動して、その結果、失敗したり、成功したり、嫌われたり、好かれたり、誤解されたり、興味を持たれたり。そんなことの繰り返しを続けていただけのような気がします。でも、確実に篠原紙工の目には見えない部分は前よりも広くなっていて、これからより心豊かな会社になれる気がしてならないのです。
プロフィール
田渕智子(篠原紙工)
Instagram
https://www.instagram.com/tomoko.tabuchi/
Official Website
https://www.s-shiko.co.jp/
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