ライフスタイル
【#2】アジア顔
執筆: 坂本大三郎
2022年2月20日
text & photo: Daizaburou Sakamoto
edit: Yukako kazuno
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僕が30歳くらいの頃、夜、東京の地下鉄に乗り、車両のドア横に寄りかかり本を読んでいると、突然50歳くらいのスーツ姿の男性に声をかけられました。「私は今、とても感動しています」男性はいいました。「私は海外からやってきて、一生懸命勉強している若者をみると応援したくなるのです」僕はこのおじさんが何をいっているのか、咄嗟には理解ができませんでした。おじさんは酒にだいぶ酔っているようです。「あなたはどこの国から来たのですか?」とても優しい目をしたおじさんはいいました。「あ、いや、僕は日本人です」
しかし、僕がそう答えても、酔っているためかおじさんは聞いてくれません。しかたなく僕は、おじさんに話を合わせることにしました。「ワタシハ、ネパールカラキマシタ」かつて自分が訪れたことのある国の名を挙げると、おじさんは満足したように、名刺を僕に渡しました。「ヒマラヤはとってもきれいなところだよね。困ったことがあったら、ここに連絡してください」
今、まさに困っていました。東京商工会議所と書かれた名刺をいただき、僕はおじさんに後ろめたい気持ちを抱きながら礼をして、逃げるように本来降りるはずのない駅で下車しました。
このように僕は時折、外国人に間違われることがあります。その季節はだいたい夏です。山形のイタリアンレストランでは店員さんに「日本語上手ですね」と声をかけられました。こんがりと日焼けした僕は、南方のアジア人のようにみえるようです。多くの人は厳しい山伏の修行で日焼けしているのだと思うようですが、いつも海で遊んでいるうちに日焼けしてしまいます。山伏ですが海は最高です。
山の文化のルーツを求めてアジアの国々を訪ねて旅をしていると、アジアンテイストの容姿のためか、現地の人から現地人に間違われる事案も発生します。沖縄ではスンダランドあたりからやって来た可能性のある2万年前の港川人の骨がみつかり、その後は大陸からやって来た人たちが縄文人のルーツとなり、長江沿岸部から海を渡って来た人たちが稲作をもたらしたとされます。日本にやって来た人たちの多彩さを思えば、自分の顔が様々な地域の人と似ているのもおかしくはないように思えます。
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山形には日本最古級の石でできた鳥居が存在します。平安時代に遡るものとされ、僕は、こうした鳥居がどのように成立していったのかに関心を持って、日本各地や朝鮮半島、中国の少数民族の村々に足を運びました。
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日本では、途方に暮れるトラブルに遭うことはほとんどありませんが、中国南部の貴州省の山奥の村を訪れたときには、来るはずのバスが来ず、しかたなく30km山道を歩き、ようやくたどり着いた宿はやっていない……そんな日本では考えられない出来事が連続して起こります。
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貴州省の山間部は、日本にも似た広葉樹林帯で、山の所々に棚田が広がるのどかな風景です。宿に泊まれないので、僕は野宿しようと、夕方、トボトボと寂しい山道を歩いていると、自分を追い抜いていった車が少し前で停まり、中から強面の男性が何人か降りてきました。「これはヤバイ」と身の危険を感じましたが、男性は中国語で何かを話しかけてきて、どうやら僕のことを地元の人と勘違いしたようでした。たぶん「こんなところ歩いて何をしてる?とにかく車に乗っていけ。」というようなことをいったのではないかと思います。僕はうながされるまま車に乗りました。男性は僕が日本人だとわかると、スマホの翻訳機能を使って、コミュニケーションをとってくれました。「こんなところ歩いていたら山で夜になってしまう。これも何かの縁だから飯でも喰いにいこう」翻訳機能は完璧ではありませんでしたが、だいたいこんなことをいっていました。
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僕は彼らと食事をして、やがて酒盛りとなりました。中国は小さな杯を一気飲みする文化があり、僕は何杯も白酒という強い酒を飲まされました。しかし東北の山伏や猟師に鍛えてられていたため酒は弱くなく「お、お前やるな!」といった具合に認められたようでした。彼らは自分が取材したいと思っていたトン族の人たちで、このときばかりは自分が「現地」になじみやすい風貌をしていて良かったなと思ったのでした。
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