ライフスタイル

【#1】山伏の僕

執筆: 坂本大三郎

2022年2月13日

text: Daizaburou Sakamoto
edit: Yukako kazuno

こんにちは。坂本大三郎です。千葉県で生まれ育った僕ですが、現在は山形県の西川町というところに住んでいます。ここには出羽三山という山々があり、山伏が修行する山として知られています。

と、書きましたが、もはやそんなこと知っている人の方が少ないのではないかという不安に襲われました。「そもそも山伏とは何だ?」という人も相当数いるのではないかと思います。山伏とは、天狗みたいな格好して、山で修行している人、とでも思っていてください。もう、それでいいです。それでもわからないという人はググってください。

実は僕は山伏の修行をして、その文化の研究をするために山形に移住をしました。そして2012年に『山伏と僕』という本を出版し、わりとヒットしました。2010年代に山伏の本が売れるなんて、誰が思ったでしょうか。僕は思いませんでした。しかし、ヒットと引き換えに、それ以来「山伏って何?」「どうして山伏になったの?」と何度も同じ質問をされるという十字架を背負わされることになりました。ちなみに昔は俗の世界で、殺し、盗み、女性トラブルなど、問題を起こした人が、山に逃げ込んできて山伏になることも多かったようで、どうして山伏になったのかという質問はタブーとされていました。実際に一緒に修行した人の中には人生の半分を牢屋の中で過ごした、という人もいました。

上記の質問と並んで、よく聞かれることは「山伏の修行をして変わったことは何ですか?」ということです。その質問をしてくる人は「修行をすることで感覚が鋭敏になった」とか「神秘的な体験をした」みたいな話を期待しているんだろうと、何となく思うのですが、正直な所、実感として最も変化があったのは「不潔になった」ということです。

山をかけ巡る山伏は、基本お風呂に入りません。修行は夏におこなわれることが多く、何日も山で過ごしていれば、かなり強烈な悪臭を発しているのではないかと思われます。でも残念なことに、鼻は臭いに慣れてしまうので自分の体臭には気がつかないのです。

修行帰りに数人の山伏とバスに乗り込もうとした際、バス運転手に「ちょっと待って!」と強めに制止され、バス中の窓を全開にされたこともありました。そのとき、はじめて「ああ、自分たちは臭いんだな」と気がついたのでした。

山形に移住する前は、東京の渋谷や恵比寿あたりに住み、そこでデザインやイラストの仕事をしていました。お風呂に入ることも大好きで、ドラえもんのしずかちゃんの如く、1日2回入ることもある清潔なシティーボーイだったのです。

それが現在では、数日お風呂に入らなくても全然平気だし、なんなら毎日入るのが面倒臭くてたまりません。いくつかの締め切りに追われながらこの原稿を書いている今も2日ほど入ってません。

ということで、山伏の修行をして変わったことは「不潔になった」というお話でした(あくまで個人の感想です)。

プロフィール

坂本大三郎

さかもと・だいざぶろう | 芸術家、作家、山伏。千葉県生まれ。自然と人の関わりの中で生まれた芸術や芸能の発生、民間信仰、生活技術に関心を持ち東北を拠点に活動している。著書に『山伏と僕』(リトルモア・2012)、『山伏ノート』(技術評論社・2013)、『山の神々 』(株式会社 エイアンドエフ・2019)等。芸術家として、山形ビエンナーレ(2014、2016)、瀬戸内国際芸術祭(2016)、札幌モエレ沼公園ガラスのピラミッドギャラリー『ホーリーマウンテンズ展』(2016)、石巻リボーンアート・フェス(2020、2021)、奥大和MINDTRAIL(2021)等に参加。

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