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【#2】神田の空に水車は回る

執筆: 二見彰(流浪堂)

2021年11月16日

text & photo: Akira Futami
edit: Yukako Kazuno

 千代田区外神田にある、廃校を再利用したアートセンター3331 arts chiyodaで、先月アートの祭典「3331 ART FAIR」(29~31日)が開催されていた。

その屋上会場で友人が何かをやらかす、というので初日に観にいってきた。

友人、千葉大二郎くん(https://www.facebook.com/daijirou.chiba.1)は、絵画やパフォーマンスを中心に活動する若きアーティストだ。アートユニット「硬軟」や撥水教徒(ハッスイスト)として、多方面に活躍の場を広げている。

会場はアートに関心のある若い人たちで溢れかえっていた。さてまずは今日のメインを、といそいそと屋上に出ると、なんと!そこには4mを優に超える水車が、風を受け夕日に照らされながら、大都会東京の空の下聳え立っているではないか!

それは物体として在るだけでなく、水の力でゴウンゴウンと、確実に水車として動いている。

近づいてよーく見てみる。天板が水車の周りを囲むように設置され、その上を匍匐前進する毒マスクの千葉大二郎。天板には矢で射られた人形2体も見える。ひるまず彼は水を全身に浴び、体を引きずりながらズルズルと進む。

そして、ある一点に辿り着くと突然立ち上がり、天に向かい叫んだ。

「エレメント! 中里介山ー!云々」
「汽笛! 弁慶がー!云々」
「靴と水がー!云々 エリック・サティー!!云々」

・・・訳の分からなさに観客衆が面食らっていると、それに構うことなくまたも匍匐前進が始まり絶叫が轟く。水車が回る、人間が回る。這い、叫び、這い、叫びながら、流れる水とともに転生を繰りかえす。まさに彼は何かをやらかしていた。

因みに、水車のピンクと白の塗装は、水車=車輪=「歯車」というわけで、人の歯と歯茎を表している。本当はこの歯に人形(人間)を括り付け、水攻めを実演したかったらしいが、最終日には実行されたのか否か。

この大仕掛けを作ったのは、現代に蘇る河原者一党、アングラ芝居集団の水族館劇場(https://suizokukangekijou.com)。千葉くんはこの劇団の役者でもあるのだ。表現者も異人なら、制作者も異人の集まりだ。

しかしこの圧倒的なバカバカしさ、無意味さはなんだ。理屈も理論もこのパフォーマンスの前ではなんの力も持たない。

「せっかく水車として稼働してんだからそれを利用して、きみのパフォーマンス&コーヒー淹れたり音楽流したりしたらよくない?」凡人のぼくの意見に、千葉くんは「それをしちゃうと、これに意味ができちゃうからダメなんです。とことん無意味じゃないといけない」と、あっけらかんと言い放つ。天才は、ポーカーフェイスの裏で、観客が意味を見出そうとするのをあざ笑っているのだ。

ものを見るときの、意味と無意味。今回の千葉くんの作品は「意味を見出すな。ただ見ろ、感じろ」という、アートの一つの見方を示してくれたような気がした。

 今回イベントのメインフロアには、癸生川栄氏ご夫妻がオーナーのギャラリーeitoeiko(http://eitoeiko.com)も出展しており、普段の生活では出会うことのない、一捻りも二捻りもある現代アート作品を親切丁寧に紹介していた。アーティストにとって信頼のおけるオーナーだ。

実は癸生川氏もご子息鳩くんも水族館劇場の役者であり、鳩くんはぼくが初舞台を踏んだ前回公演で、相棒役(彼が天草四郎、ぼくが四郎を操る妖術使い)だったのだ。

プロフィール

二見 彰(流浪堂)

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