ライフスタイル
Re: view – 音楽の鳴る思い出 – /Vol.2 OTTO
2021年12月22日
photo & text: OTTO
translation: Hikari hakozaki
edit: Yuki Kikuchi
Re: view (音楽の鳴る思い出)
この連載は様々なミュージシャンらをゲストに迎え、『一枚のアルバム』から思い出を振り返り、その中に保存されたありとあらゆるものの意義をあらためて見つめ、記録する企画です。
今回の執筆者

■名前:オットー(オットー・ベンソン)
■職業:学生
■居住地:西マサチューセッツ州
■音楽が与えてくれるもの:思い出、目的、友情
■レビューするアルバム:『Macula Dog』Macula Dog

メタル・キングダムでの夜
高校時代、ぼくはニューヨークの刹那的なDIYスペースで開催される、年齢の入場制限がない様々なパフォーマンスを観に行くことが好きだった。そういうものは大抵フェイスブック上に散らばったアーティストや会場の情報を一つ一つ辿って「いいね!」を押すことで知ることができた。17歳のあるとき、いつも通り「いいね!」を押してページを辿っているうちに、ぼくは Calvin LeCompte、Macula Dog、Juiceboxxx の三組が出演するライヴの広告にたどり着いた。
以前、巨大な異形の人形を肩に乗せライブをしている Macula Dog の映像をYouTubeで観たことがあったから、このライヴを絶対に見逃したくなかったけど、その日のライヴに同行してくれる友人はあいにく見つからなかった。その当時、ぼくはニューヨークの地下鉄という閉鎖空間に対する恐怖症を抱えていたこともあって、ライヴに行くかどうかかなり悩んだけど、結局一人で行くことに決めた。ちょうどその時期に学校の授業で読んでいた『ジェーン・エア』の本を持参して、会場までの長い電車のなかは、その本を読んで気分を紛らわせることにした。
目的地に着き、入り口にいた人にライヴ会場がここで合ってるか尋ねてみると、一ブロック先の通りを渡ったところの中華料理店の地下にあると教えてくれた。言われた通り歩いてみると、中華料理店の地下の小さな店舗スペースからは確かに音楽と光が放たれていた。店内の左側の壁には、黒いゴシック調のフォントで“メタル・キングダム”と書かれてあって、右側の壁には、複雑な形をした革製の衣服と、複雑なゴア・アートが施された膨大なメタル・レコードのコレクションが飾られてあった。
会場の中に足を踏み入れると、Calvin LeCompte が演奏していて、入り口の雰囲気と相反して、彼のライヴ・セットは穏やかな雰囲気を醸し出していた。

10人ほどの観客がいるスペースの真ん中で演奏する Calvin LeCompte の声と、彼が鳴らすギター、そして最小限のバックトラックが小さなアンプを通して押しつぶされ、曲全体が愛すべきくぐもった音へと集約されているようだった。Calvin LeCompte のライヴが終わり、次の Macula Dog がライヴの準備をしているあいだ、ぼくは『ジェーン・エア』を読み進めた。
Macula Dog の二人は、YouTubeの映像で観た異形の人形の姿ではなく、お揃いの黒いジャケットと白いベルボトムを着て、ブラックライトのなか登場した。カツラのようなトゲトゲした器具を頭に装着し、顔の前にはカメラがぶら下がり、頭上にはミニプロジェクターが取り付けられる二人の顔が後ろの白いスクリーンに映し出され、ついにMacula Dog の演奏が始まると、会場を埋め尽くす15人あまりの観客の多くが、奇妙に加工されたMacula Dog のヴォーカルにキャッキャと笑った。Macula Dog の演奏にはユーモアのセンスと即興性が加わっていた。


最後にバンドと一緒に登場した Juiceboxxxは、彼らしいスタイルで飛び跳ねたり、天井のフォームタイルに手を突っ込んだりして客席を暴れ回った。そのライヴの途中、本日のイベント『メタル・キングダム』の主催者たちと思われる、贅沢な長髪を靡かせたグループが奥から現れ、彼らはビールを飲みながら、演奏エリアの後方で残りのライヴを眺めていた。
駅まで歩いているときに漂ってきた、もうすぐやってくる夏の濃厚な匂いと、驚くほどの街中の暖かさ、そして地下鉄に辿り着くまで続いた、あの純粋な満足感を今でもはっきりと覚えている。誰もいない地下鉄の車両に乗り込んだあと、ぼくは『ジェーン・エア』の本をバッグにしまったまま、ぼーっと電車に揺られ、あの三組の化学反応、そしてメタル・キングダムが織りなす親密なコミュニティのことを考えながら、家にいたら見逃していたであろう、その夜見たすべてのことを頭の中で整理していた。
文・ OTTO
執筆者プロフィール
OTTO
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