ライフスタイル
【#2】出会いを楽しむ。
執筆: フモフモ編集長
2021年10月17日
text & photo: fumofumohenshucho
edit: Yukako Kazuno
スポーツ観戦の現場ではたくさんの人と居合わせます。同じ競技を見に来ている「同好の士」という面によるものか、道ですれ違うだけの人とは少し違う、ほんのりとした連帯感を覚えます。同じユニフォームを着ていれば仲間。別のユニフォームを着ていればライバル。単なる他人ではない関係性が生まれます。
自分は極度の人見知りなのですが、スポーツ観戦の現場では少しだけそういった部分が解きほぐされるのも、その「ほんのりとした連帯感」によるものかもしれません。2019年ラグビーワールドカップの際には隣の席に座ったアイルランドの知らないオジサンと熱いハグを交わしたりもしましたが、これもスポーツ観戦の現場ならではのことだっただろうと思います。
そのときは、ラグビー・アイルランド代表のアンセム「アイルランドコール」というのがちょっと調子がいい曲なもので、自分も「アーイルランド!アーイルランド!ふふーんふんふんふーん!」と歌っていたのですが、ビビビと来ちゃったんでしょうね。隣の席のアルイランドのオジサンにガバッと抱きつかれたのです。
気がつけば、そのオジサンと、オジサンの息子と、オジサンの甥と拙い英語で言葉を交わし、記念撮影までする仲になりました。そのときの試合はアイルランド代表がニュージランド代表にボコボコに負けるという内容だったもので、「ジーザス……」とうなだれるオジサンを何故か僕が懸命に励ますハメになるという謎の構図になったのも(※息子も甥もうなだれてて一家全滅のため)、今となってはいい思い出です。
ただ、やはりこのコロナ禍になってからは、そういった連帯感も薄らいできたかもしれません。席と席の間も広がりましたし、人数自体も少なくなりました。そして、見かけなくなった人も。ひとり、とても気になっているのが大相撲の東京場所でいつも遭遇していた「いっきお~い!」の青年です。
この青年、足掛け10年ほど「東京場所の大相撲を見に行ったとき、必ず見かける」青年でした。力士たちが入場してくる屋外通路のあたりにずっといて、入り待ちをしていることが常でした。10代のような幼さにも見えるし、30代くらいの肌質にも見える年齢不詳の青年。身なりは決まっていつも阪神タイガースのユニフォームで、頭にハチマキを締め、ハチマキに画用紙を挟んでいました。自分で書いたものでしょうか、大相撲の人気力士「勢」の似顔絵に「いっきお~い!」という文字が添えられていました。
自分が観戦に行ったのが場所の初日でも、中日でも、千秋楽でも、必ず「いっきお~い!」の青年を見かけたので、彼はきっと毎場所十五日間すべて来場していたのでしょう。いつしか毎場所のチェック項目となり、「今日もいるかな?」「今日もいたわ……」と確認するのが習慣になりました。そんな彼とも、コロナ禍以降は遭遇できていません。国技館では力士の入り待ち出待ちができなくなり、いつも彼がいた場所は封鎖されてしまいました。そして、2021年6月には彼が応援していたであろう勢関も引退してしまいました。会いたいと思っていたわけでもないのに、とても寂しい気持ちにさせられます。
去る9月26日、自分は大相撲九月場所観戦のため国技館にいました。その日、館内にあるパン・スイーツの売店では、引退して春日山親方となった元・勢が売り子として働いていました。もしやここに「かっすがや~ま!」と書いた画用紙をつけた阪神のユニフォーム姿の青年がパンを買いに来るのではないか……そんな気持ちでしばし売店を見守っていましたが、青年は現れませんでした。勢に再会できた喜びが、「いっきお~い!」がいない寂しさでかき消されるようでした。 このコロナ禍が収束したとき、もう一度あの青年と会えるのだろうか。阪神タイガースの応援に行ってしまって、もう大相撲では会えないのだろうか。それとも、いつもの場所ではない場所で、彼は今もまだ大相撲と勢関を応援しているのだろうか。インターネットで検索しても答えが出てこない問いに悶々とする日々は、まだもう少しだけつづきそうです。
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