カルチャー
第1話: 今でもデイ・トリッピン
文: ジョイ・オービソン
2021年9月6日
text: Peter O'Grady as known as Joy Orbison
translate: Emi Aoki
edit (Japanese): Wataru Suetsugu
2021年 8月初出
僕の青年期を大きく形作ったのはDJとレコードショッピングでした。中学生の時に、ターンテーブル(2台のNumarkとSoundlabのミキサー)を持っていたことでちょっとした有名人になり、生涯の友となる人たちと出会うきっかけにもなりました。僕はラッキーでした、なぜなら僕が14歳くらいの頃、従姉妹がジャングルやドラムンベース、UKガラージといった音楽を教えてくれたり、彼女の夫であるRay Keithのレコードやミックステープをくれていたんです。
僕は現在34歳ですが、当時はもう少しサブカルチャー色が強かったように思います。D’n’B(ドラムンベースの略称)やUKG(UKガラージの略称)が好きな人は特有の格好をして、特有の人たちに傾倒していました。メタル好きやグランジャー(グランジに傾倒した人たちの総称)と同じように。週末には地元の街であるクロイドンに友達と遊びに出かけていました。何人かはレコードを買いに行って、他の人たちはWhitgift Centreをブラブラしたり、屋内マーケットのウィード・ショップに行ったりしていました。ほとんどの場合、僕たちはメインのグループから分かれて(当時は大勢で出かけることが多かった)、下記のような場所を巡っていました。
まず最初に行くのはBeano’sという中古レコード屋で、そのお店にはいくつかフロアがあっていつも手頃な価格の12インチが置いてありました。Beano’sのメインフロアにはロックやポップなどがたくさんあったので昔からのレコードコレクターにとってはかなり有名なお店だったと思います。ただ、僕たちにとっては2階に安いホワイトレーベルが大量に置いてある変わったレコード屋という認識でした。初めてお店に行った時にKrustの「Warhead」を掘り出して興奮したのを覚えています。ずっと後になってから母親と一緒に(たしか閉店の週末に)行った時にはScars唯一のスタジオアルバム「Author! Author! 」を手に入れました。この2つの体験談からこのお店の幅広さが少しは分かってもらえるでしょうか。
次に向かうはハイ・ストリートのお店です。名前が思い出せないのですが、不機嫌なオーナーがいて僕たちはレコード針の置き方についていつも叱られていました(もし店の名前を覚えている人がいたら、ぜひ教えてください)。そのあとは、今では誰もが知るサリー・ストリート・マーケットのBig Apple Records です。当時、そのレコード屋はカルチャーの中心的存在で、カウンターの向こうにいるDJ Hatchaは特別なキャラクターの持ち主だったし、ターンテーブルの横には灰皿が置いてあって、それが僕たちにとっては洗練された空間の極みのように感じられました。いつもお客さんで賑わっていて、店一押しのホワイトレーベルやレアなレコードが壁を覆っていました。グライムが流行り始めた頃、このお店で当時のアンセムを何枚か手に入れたことを覚えています。パイレーツラジオやレイヴで耳にする音楽とこれほどつながっている場所は、ロンドンにはここを含め数カ所しかなかったように思います。
Big Appleの評判や知名度にもかかわらず、僕らにとって本当に重要だったのは次の目的地であるSwag Recordsでした。僕は今でもレコード屋にとってスタッフの存在が重要であることを固く信じています。僕らはレコードを探しに来ていただけの若くて無邪気な子供でしたが、Swagのスタッフの1人であるLoftgrooverに大きな影響を受けて、それからしばらく彼からレコードを買うことが多くなりました。僕たちはUKガラージのレコードを求めてSwag に通っていたのですが、そこがテックハウスの生まれた場所として広く知られていることに気付いたのは、実はかなり後になってからでした。その事実は僕にとってすごく衝撃的でした。サブカルチャーの話に戻りますが、僕にとってUKGは非常に特殊なカルチャーという枠だったのですが、僕にとってレコード屋はBrandy and Monicaのブート版を買う場所でしかなく、それ以外の存在であるということに気づかないくらい無知でした。今、RIP Productions風のドラムが入ったGideon Jacksonのトラックを聴けば、Swag というお店の一面(UKガラージ)と別の一面(テクノとハウス)を誰かが組み合わせることをしていたとしてもおかしくはないと思えますが、15歳の僕の頭の中ではこの2つのサウンドは遠く離れたものでした。短絡的な人間が僕だけで本当に良かった!
クロイドン・マジカル・ミステリー・ツアーで最後に訪れるのは、ウェスト・クロイドンにあるハードコアとドラムンベース専門店のWax Cityです。ここでは友達の姉のボーイフレンドが働いていて、運良く僕たちが来たことに気づいた時には声をかけてくれました。Wax Cityはアステカやエジプトのような装飾で、当時僕たちが好きだったもののなかで最も抽象的でした。自分では絶対に探そうと思わないような、Brockieのミックステープで聴いた曲のレコードを偶然見つけるようなレコード屋でした。
感の鋭い人は、僕たちのルートが地理的にかなりコンパクトだと気づいているでしょう。僕たちは必要に応じて帰りの駅に行く途中で前のお店に戻ったり、HMVでメジャーレーベルのリミックスを3ポンドで買ったりすることができました。よく地元に帰る前に、 George Streetのありえないぐらい安いチキンのお店に行って、その日に収穫したレコードを見せ合い、次にクロイドンに遊びに来る時までにランチ代をいくら節約すればいいのかと話したりしていました。
振り返ってみると、自分が当時買っていたレコードとは今でも強いつながりを感じることができるし、それが今の自分を形作っていることに喜びを感じています。10代の僕が、いつか自分が作ったレコードが足繁く通ったレコード屋に並んでいるのを知ったら、感激するんじゃないかな。サンキュー、クロイドン!
今回のコラムはアディスコムにあるDnR Vinylに捧げます。ちなみに、そのレコード屋は僕が覚えている当時の特別なエネルギーが今でも感じられるお店なので、もしクロイドンに来ることがあればぜひ足を運んでみてください。
x Joy O
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