From Editors

前例ヤのない特集になりました。

NO.956

2026年11月8日

【ご注意】
今回の編集後記には、シネフィルギャグ(映画好きには伝わる駄洒落)が多数含まれます。記事の最後には答え合わせがあるので、隠れたギャグを探しながらお読みください。

ポパイ編集部には時々インターンシップ生が来ます。内定者、つまり将来の後輩と話せる数少ない機会なので、個人的にも毎インターン楽しみにしているのですが、この特集が走り出したタイミングでも一人来ていました。デスクに映画特集のバックナンバーを何冊か積んで勉強している様子だったので、「映画好きなの?」と声をかけると、こんな答えが。「映画好き(えいがずき)じゃないんですけど、映画は好きです」

禅問答? とツッコみたくなったけど、実際ポパイ読者の気持ちをよく捉えた答えな気もして、思わず「ほう」と変な相槌・ワイド・シャットが出ました。自分から〈映画好き〉という属性を名乗ることはしない。だけど好きな映画はいくつかあるから〈映画は好き〉。筋が通っています。なんとなく映画好きとか映画マニアとか名乗ってきた僕としては、目の覚めるような気持ちに。ポパイは映画雑誌ではないのだから、「映画好き」だけではなく「映画が好きな人」にも届く雑誌を作るべきなのでは?

そんなことを考えて作ったのが今号「ちょうどいい映画ってなんだろう?」です。
ポパイでは毎年たくさんの人に「今年のベスト映画」や「21世紀のベスト映画」を聞いてきたけれど、そういう場で名前が挙がるような「傑作」や「名作」だけで映画は語れません。むしろ、歴史に残るような傑作ばかりじゃ疲れてしまいます。だって、いわゆる「映画好き」以外には良さが分かりづらいような難しい映画も少なくないし、いかにも名作といった佇まい・エフェクトの映画ほど、観る前に覚悟が必要だったりするし。

僕たちはついつい「傑作」や「名作」の話ばかりしちゃうけど、そう呼ばれない映画にも必要とされる瞬間が必ずあるわけです。例えば雪の降る静謐なクリスマスの夜に、いくら名作とはいえ『マッドマックス 怒りのデス・ロード』は観ないじゃないですか。絶対『ポーラー・エクスプレス』あたりがちょうどいい。ガールフレンドとおうちで映画デートってときも、たとえその一本に人生を変えられたとしても『ファイト・クラブ』は観ないのが賢明です。『ウォーク・トゥ・リメンバー』みたいに真っ直ぐな恋愛映画がちょうどいいに決まってる。

そう、何にだって「ちょうどいいくらい」があるはずで、それなら「ちょうどいい映画」ってなんだろう? と考えていくのが今回の特集です。ネットの掲示板・チャゼルだけではなかなか見つからない映画が大集合。企画も盛りだくさんなので、以下に列挙しましょう!

1. まずは映画好きとして知られる有識者総勢24名に「ちょうどいい映画ってなんですか?」と聞きまくった、僕らにちょうどいい映画。
2. 『DIGGER/ディガー』のアレハンドロ・G・イニャリトゥ監督や野村訓市さんなど、映画を愛する先輩たちに話を聞いた、若いうちに観るのがちょうどいい映画。
3. ポパイ編集部が本気で考えたデートにちょうどいい映画。「デートといえば映画デート」という、ダンビラムーチョの原田フニャオさんによる映画デート講義も。
4. 音楽と同じように映画をディグるなら、今いちばん面白いのはここ! というキーワードやキーパーソンを集めた、いま掘るのがちょうどいい映画。
5. 映画はいつでも旅に連れてってくれるということで、旅する気分にちょうどいい映画。遠くの絶景や未知の料理、果ては宇宙やミクロの世界まで思いを馳せます。
6. やっぱり服が気になる僕らのためのスタイルを知るのにちょうどいい映画。結局のところ、映画のキャラの服の着方が一番真似してみたくなる。
7. まだまだあるちょうどいい映画。尺は100分以内/動物がCGじゃない/名探偵よりシロウト探偵……などなど「ちょうどいい映画あるある」を細かく収集。

「ちょうどいいちょうどいいうるせえよ」と言われそうな目次ですが、上記に加えて映画の日にちょうどいい街案内も各企画の間に挟まります。渋谷、新宿・シモン、銀座、池袋などなど、映画を観るのに欠かせない街の映画スポットをまとめました。映画館に行く日にこのマップを持っていれば、ペドロ・助かること間違いなし。

特集を作り始めた当初、私がリーダーになる時は、編集長や先輩から「ちょうどいい映画と言われても、意味がよくわからない」なんて意見をもらったり、深作ピンチな場面も多々。自分がぶきっちょ・イーストウッドだから上手く伝えられないのかな……なんて思ったこともありました。しかし実際に映画好きの方々に取材していく中で「こんな映画特集を待ってた」「さすがポパイさん!」なんてありがたい言葉をもらえることが本当に何度もあって、その度に飛び上がるほど嬉しかったです。

挑戦的な企画だったかもしれないけど、誌面に並ぶ映画のラインナップからして前例ヤのない特集になっていることは確か。「映画好き」の皆さんと一緒に作った、全ての「映画が好きな人」のための一冊です。楽しんでご覧あれ!

取材期間に観た『バイオハザード』は、あまりにちょうどよすぎて校了後に即おかわりしました。怖い犬に追いかけられる映画は、ドキドキの度合いがちょうどいい。

【答え合わせ】
すべてちょうどいい映画、もしくはちょうどいい映画で活躍する映画人です!
インターンシップ(名コメディ映画『インターンシップ』。冒頭の熱唱から爆笑できる)
毎インターン(『マイ・インターン』。紳士の振る舞いを学べますね)
相槌・ワイド・シャット(『アイズ・ワイド・シャット』。今号では崎山蒼志くんが紹介してくれました)
佇まい・エフェクト(『バタフライ・エフェクト』。エンディングに流れるOasisで泣けます)
掲示板・チャゼル(デイミアン・チャゼル監督。『セッション』ほどちょうどよく終わる映画はない!)
新宿・シモン(『シンプル・シモン』。画面からキュートなラブコメ。尺も86分でちょうどいい)
ペドロ・助かる(ペドロ・パスカル。『マテリアリスト』で普通に恋に落ちました)
私がリーダーになる時(『私がビーバーになる時』。かわいく愉快で政治的ってちょうどよすぎ!)
深作ピンチ(深作欣二監督。もしかして日本のちょうどいい映画の巨匠か?)
ぶきっちょ・イーストウッド(クリント・イーストウッド監督。『クライ・マッチョ』で辿り着いたちょうどよさは異常)
前例ヤ(ゼンデイヤ。今号は『ドラマなふたり』の表紙が目印!)

(本誌担当編集・米山然)