TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#2】これからの壁を探して

執筆:大橋和彰

2026年10月22日

 今の世の中には、なんでカッコいい壁が少ないんだろう。「伝統工法」という技術は、皆んなの暮らしに生かされているのか?

 左官の世界に入ってから、ずっと考えていた。

 僕は中学生ぐらいからファッションに興味を持ち始め、原宿に行くようになった。お店に行っては店員さんと話して、色々と教わる日々。大抵カッコいい店員さんがいて、お金が乏しい若僧にでも優しくマニアックな話をたくさんしてくれた。

 そしてその頃、ファッションのことをもっと知るために本屋にも通うようになった。雑誌がとにかく好きで、神保町の古本屋を巡り、関係ない記事でも隅から隅まで読み漁る。服飾の歴史、民族衣装、民藝、音楽、旅行記、古い雑誌などをひたすら読み耽り、気がつけば毎日入り浸っていた。そうした興味の矛先はカルチャー全般に広がり、「世界中の街や暮らしをこの目で見たい!」と、バックパッカーにたどり着くのだけど、旅のはなしは長くなるので、今回は冒頭の問いに戻ることにする。

サンプルを元にコミュニケーションが弾む。

言葉で表せない色を見つける。

 ファッションでも音楽でも自転車でも、新しい建物でも古い小屋でも、通りすがりの人でも風景でも、なんか良いなとか、これはカッコいいというのは皆んなあるかもしれない。では、壁はどうだろう?

 左官には伝統があり、技術も思想もすべて素晴らしいと思っている。その奥が無限に深い世界をぜひ知って欲しいと思うけれど、誤解を恐れずに言うと、自分がやりたい壁、今自分が欲しい壁、現代にあったらいい壁はあまり考えられていない気がする。だから、自分で作るしかない。これが今に続くサンプルの旅の始まりとなった。

 僕が目指しているのは「普通の壁」。ファッションで例えるなら、普段着のさりげない感じの壁。作る方も扱いやすく、気候風土にも合っていて、手入れも簡単。そんな壁を作りたくて、素材から仕上げまで、脳内列車はぐるぐる寄り道しながら進んでいく。

光の受け方を確認。

テクスチャーを確認。

 そうしたときに、とにかく重要なのが「サンプルづくり」だと思っている。サンプルとは壁や天井、床やテーブルなどを左官で仕上げる前に塗り付けた小さな板のことだ。それをもって、質感、色、強度等をデザイナーやお客さんと確認する。左官業界での基準からすると、サンプルづくりは面倒な作業で、できればメーカーから取り寄せたもので決定してもらいたいのが常。でも僕は真逆のスタイルでやってみる。お客さんに頼まれたからではなく、率先して作っていく、作りまくる。

 現代の暮らしにおいて「普通の壁」ってなんだろう? 大昔に使われてた素材をなぜ今は使わなくなったんだろう? メーカーの出す均一な表情ではなく、奥行きやムラのある仕上げってなんでないのだろう? 使える素材と使えない素材の違いは? ……一つ一つの問いを解決するべく、ありとあらゆる素材を混ぜ合わせていく。

全国各地の素材を元に考えていく。例えばこれは、宮古島の土と琉球石灰岩の砂と砂糖黍の皮。

 この「配合」という世界にも黄金比はあって、これは旅で言うなら人気の観光地と言える。けれど、誰も行かない小さな村にある、名前も知らない町の寂れた教会こそ面白かったりする。その教会のしっかりとよれた壁、そんなの見てみたいじゃないですか! 

 とまあ、サンプルの旅は現実と妄想を行ったり来たりしながら続いていくのです。

プロフィール

大橋和彰

おおはし・かずあき|1983年、東京都生まれ。中学から高校生まではファッションに興味を持ち、学校をサボり原宿と神保町に通う。その後、アジア、ヨーロッパ、アメリカ、南米などを旅をしたのち、さまざまな建物、暮らし、食に刺激を受け、農業、造園業、左官業の3択で迷った結果、2005年に左官の道へ進む。10年の下積みを経て2015年、独立。現在は妻と子供4人と犬とニワトリとアヒルと暮らす。左官を生業に、山を開拓する日々を送っている。

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