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あらためて遊歩大全 #5 / 寝室編

寝所作りと寝袋選び。

2021年7月15日

photo: Hiromichi Uchida
composition: Kyosuke Nitta
cooperation: Kazuhiko Kai
2014年12月 812号初出

時は1968年。反社会運動真っ只中のカリフォルニアにて、新しい発想での自然回帰・ウォーキング哲学を提唱し、ヒッピーを大自然へと誘った『The Complete Walker』(著・コリン・フレッチャー)は、全米でベストセラーに。その後改訂版として登場した『The New Complete Walker』を、1978年に芦沢一洋が熱のこもった言葉で翻訳・出版し、日本でも空前絶後のバックパッキングブームが巻き起こった…。


それ以降、山を歩いて旅する者たちのバイブルとなった『遊歩大全』。文庫版ですら976ページもあるこの長旅をギュッとまとめて、目次順に解説!5回目は『Bedroom 寝室』。

– 屋根なしキャンプのすすめ。-

 いかなる旅でも、寝室の天井あるいは屋根として最善なのは空そのもの、とコリンは断定。ただ、寒さやひどい雨、虫や動物への対策として、テントやタープの必要性も認める。寝所は風除けを見つけることを優先し、水平な場所を全力で確保。厚い落ち葉のじゅうたんは最高に暖かい。朝日の最初のひと筋をベッドに受けるのも大切。

– テントを使うならば。-

 実はコリンはテントの経験が少ない。あえて言うなら「マウンテン」テントと呼ばれる種類が、軽くて丈夫で必要十分。長年使ったソロ用は〈トレイルワイズ〉。入り口は高さ40㎝で、黄色で光沢のあるナイロン地。ツイン用は〈シェラ・デザインズ〉。生地はリップストップナイロンで、入り口にメッシュのモスキートスクリーンが付いているもの。

– ノン・テントでもOK。-

 コリンはテントよりもむしろ、「ずっと軽く、セットアップも楽なもの」をたくさん紹介する。「屋根なしの真の自由を味わいたいから」とこだわるのは、ビスクランプ・アタッチメントを付けたプラスチックシート。強く、軽く、安く、防水。ハトメも何もないプラスチックシートを用意し、シートの端で小さなラバーボールをくるんで2回ねじり、そのテルテル坊主の頭にワイヤーの大きいほうのループをかぶせ小さいほうへとスライドさせ、大ループにナイロンコードを結んで引っぱりガイラインにし、張る。他にはポンチョ。砂漠で休憩するときの日除けによく、強風のときは3点だけ張って風下の一角に石をつないで可動式にしておく。

– マットレスを忘れないこと。-

 マットレスは防寒、体力回復のために必須。タフなゴム引きで、ピローセクションがあり、ヒップレングスの小型エアマットレスがコリンの定番で、休憩中の椅子、川を渡るときの浮袋としても使った。夜間の気温が氷点下に達しそうなときは、断熱効果があるフォームパッド。

– 寝袋は死活問題である。-

「スリーピング・バッグを購入するということは、とてもシリアスな仕事」とコリンは語る。よい寝袋は値段が高いから覚悟が必要。コリンがあらゆるコンディションを通して使い続けたモデル、〈トレイルワイズ〉のスリムラインから、よい寝袋に必要な特徴を参考にしよう。まずは体を効率的に包み、体が発する熱をよく保存するマミー型(コリンはいつも裸で入る)。頭周りのフードを締めるドローコード付き。両面スライドのナイロンジッパーがサイドにあり(恋人の寝袋をジョイントし2人で仲むつまじく寝られる)、内側には閉めたジッパーから空気を逃さないドラフトフラップ付き。フィルはコンパクティビリティ、膨張復元性、空気の含蓄量、軽さにおいて優秀なホワイトグースダウン(水には弱い)で、生地はソフトな肌触りのテナヤ・ナイロン(ナイロンタフタ)。フィルを詰める構造はV字のシェブロン・バッフルで体によくフィットし、外側より内側のシェルを小さくカットすることで保温効果を上げるディファレンシャルカット。
寝る前に気をつけたいのは、フラッシュライトを迷子にしないこと(コリンはいつも靴の中に入れておく)。また、寝袋の端を持ってふんわりゆすり、フィルの中に空気をいっぱい含ませ、暖かく眠れるように配慮すること。

1987年には上下2巻が1冊(左)に。その後に絶版となり、入手困難な状態が続いたため“伝説のバイブル”と呼ばれていたが、2012年に山と渓谷社より文庫版(4・厚さ3.5㎝。¥2,200)が登場した。(右)