TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#3】“magnif” Season one 2009-2025

執筆:中武康法

2025年11月25日

 マガジンハウスの雑誌は、ファッション雑誌の古書店として当然ではあるが、開店当初から大きく扱っていた。なかでもやはり『POPEYE』は、いつだってかなりの冊数が棚を占めていた。特に70〜80年代のバックナンバーについては、そもそもの発行部数も相当なものだったろうが、大切に揃えて保管されているお客様が非常に多く、100冊以上のまとまった量で買い取ることが少なくない。雑誌が主な情報源だった時代、ページの隅々まで話題がギッシリのこの“カタログ雑誌”は、若者たちが新しい時代を切り拓くための他でもない辞書だったのだと思う。

 そして当店がスタートしてから3年後の2012年、この『POPEYE』が輝かしいリニューアルを遂げたのは皆さんの知るところだと思う。かつての同誌がまだ見ぬ西海岸やハワイの楽しさを徹底的に追求したように、ポートランドなどの新しい若者文化の胎動を拾い上げ、やがては神保町をはじめとする日本の下町を掘り下げていったのはとても興味深いものがあった。最近、英国の情報誌『TimeOut!』が「世界一クールな街」としてこの神保町を挙げたのが話題になったが、その着火点の一つとしてこの『POPEYE』の存在があることは誰も否定しないだろう。当店も度々記事に関わることができてラッキーだったが、私と生まれ年が同じ1976年創刊だという事も勝手に運命を感じている。

 ファッション雑誌とは、読者の半歩先にいるのがちょうどいいとよく云われるが、マガジンハウスの雑誌たちは長らくそんな立場で時代をリードしてきたと思う。戦後の貧困を抜け出し、ようやくお洒落や夜遊びの余裕ができた男性たちを牽引した『平凡パンチ』、ウーマンリブやヒッピー文化の台頭をいち早く察知し、それらを圧倒的にカッコいい誌面で表現した『アンアン』、その女性文化をより思想的に明らかにし、庶民の日常にまで落とし込んだ『クロワッサン』、『POPEYE』のガールフレンド的存在でスタートするも、やがては男性に媚びずに己のロマンに邁進する女性像を導き出した『オリーブ』、より裕福になった日本男性に向け、無骨で野生的な男らしさを提案しつつも、世界一流のモードやアート、そして居住空間を啓蒙した『ブルータス』など、すべてが日本のファッションカルチャーにとって重要な雑誌たちだ。

 そしてそれらの雑誌たちはもれなく、入荷の度に新しい発見をもたらしてくれる。アメリカのイメージが強い『平凡パンチ』や『POPEYE』が、英国キングスロードの伝説的ショップ(ミスターフリーダムやヴィヴィアン&マルコムの店など)をどこよりも早く取材していること。80年代『アンアン』のブランド人気投票で、“黒い衝撃”直後のコムデギャルソンに大差をつけてコムサデモードがトップだったりしたこと。のちに宝島社などの雑誌で繰り広げられた藤原ヒロシ周辺の連載記事の原型が、80年代の『POPEYE』で既に出来上がっていたこと。その他いくらでも挙げられるが、全ては雑誌のコンテンツの充実だったり、編集部の先見の明があってこそだろう。

 今年めでたく80周年を迎えられたマガジンハウスさんに、あらためて感謝の気持ちを伝えたい。

プロフィール

中武康法

なかだけ・やすのり | 1976年、宮崎県生まれ。2009年、古書店『magnif』を古本のメッカ・神田神保町にてスタート。古今東西のファッション雑誌を集めた品揃えは、服好き雑誌好きその他の多くの趣味人の注目を集めている。2025年末、建物の老朽化のため移転を予定している。

Instagram
https://www.instagram.com/magnif_zinebocho

Official Website
https://www.magnif.jp