カルチャー
彫刻という経験 その2
Catching Art: 身体でアートを感じるために #4
2025年11月12日
前回、「彫刻という経験」について書きましたが、特に観る身体という経験について触れたわけです。今回はもっと具体的に、一つだけの彫刻の経験をナレーションしたいです。作品は去年観た中谷芙二子の《白い風景—原初の地球 SeriesⅡ》です。でも、より正確に言いますと、この彫刻を「観た」のではなく、「経験した」のです。
早朝に京都から姫路に出かけて姫路市立美術館にわりと早い時間に到着しました。
すると、美術館の外にはこの風景が広がっていました。
姫路市美術館は姫路城を背にしてやや大きい公園があり、そこにいくつかの彫刻が置かれています。真ん中に、フランス人の彫刻家、エミール・アントワーヌ・ブールデルの『モントーバンの戦士』(1898年ー1900年)があります。体の大きい、特に手の大きい戦士が左の腕を張って、そして刀のハンドルを握る右の腕は頭の上を抱いている。
ところが、この彫刻は動いている霧によって覆われて、現れたり消えたりしています。少し近づくと、この光景になりました。一体、どういうことでしょう。
『モントーバンの戦士』のそばに、中谷があるノズルを地面に設置していました。そして30分に一回、数分間にそのノズルから霧が出されていました。その霧自体が中谷の彫刻になります。そうなんです。この彫刻の素材は「霧」です! センサーなどによって中谷の作品は環境や風や気温に反応するのです。それだけでもすごいと言えますが、技術的な話はやめておきたいです。もうお分かりだと思いますが、ここで語りたいのがこの彫刻の経験です。
中谷自身はこのような考え方を持っています。自分の作品を「ライブ彫刻」を呼びながら、「霧の彫刻の体験は、自然との交歓ばかりか、自身の深層との対話へと誘う」と語っています。(もっと中谷芙二子の言葉を見たいと思えば、来年の3月22日までに姫路市立美術館のコレクションギャラリーで「霧の彫刻」の振り返り展があります。)それでは、中谷の彫刻はどんな経験を呼び起こすのか?
霧は常に動いています。「固まった霧」はもう霧ではなく、雹になる。なのでこの彫刻は瞬間と瞬間の間、必ず変容します。『モントーバンの戦士』が物理的な硬さを持ち、頑固にまで姿勢やポーズを取っているのに対して、《白い風景—原初の地球 SeriesⅡ》は「これ」という決定的な形はそもそもない。遠くから見ても、近くから見てもそうだ。それに、「近くから見る」と言っても、この彫刻の中に入ることもできるのです! 更に言うと、この彫刻は吸えるのです! これ以外、そんな彫刻があるのかは知らないです。(ちなみに「食べる彫刻」ならばフェリックス・ゴンザレス=トレスという名前は挙げられます。)
私にとってこの彫刻の経験はとてもスリリングです。一回終わると、20分ほどを待たなきゃいけない。そしてまた始まると、何回目でも、ジェットコースターのような感覚が生まれる。写真は結構かっこよく撮れるかもしれないですが、緊張感や開放感は伝えられないのです。霧の中、見えたり見えなくなったりしている。中にある『モントーバンの戦士』も消えたり現れたりしている。霧で覆われて本当に何も見えなくなってしまう瞬間があるからこそ、ある時は手を体の前に探りながら、心臓のドキドキする音中を聴きながら、体験するしかないのです。
ですが、次の瞬間に、霧が文字通りに「雲散霧消」して、全てがくっきりと見えるように戻ります。これは、中国の古典的な風景画を思い出しました。そういった風景画の絵には、黄山の霧の中の、山や鳥が消えたりしている瞬間という感覚を描いている作品が多いのです。中谷の作品はそれを墨を使いながら描くのではなく、人をそのような感覚を直接的に与えると思いました。だからこの作品の題名に「白い風景」があるのではないか?
実際に、子供はこの作品を非常に楽しんでいました。だが、私と同じぐらい明らかに楽しんでいた大人の方もいて、自然に話をかけることになりました。(許可を得て写真を掲載しています。)すると、この方はなんと、九州からきた画家でした。彫刻の中が出会いの場所にもなりうるのかと思いました。
中谷が「霧の自由さ」についてこう語ります。「考える前に、全感覚を使って自然を感じとる」この言葉は彫刻という経験を新たなものにさせる言葉でしょう。
プロフィール
ダニエル・アビー
1984年生まれ。アメリカ合衆国カリフォルニア州出身。美術史博士(UCLA)。2009年から日本の美術や写真にまつわる執筆・編集・翻訳に携わる。現在、大阪芸術大学 芸術学部 文芸学科の非常勤講師として美術史・写真史を教えている。
https://mcvmcv.net/
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