TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#2】雲の上の生活

執筆:Yuri Iwamoto

2025年10月21日

第2回目は、高山帯という特殊な環境で、働きながら暮らすわたしたちの日常についてご紹介致します。『南極料理人』という映画をご覧になったことはありますか? 見る度に、山小屋の暮らしとよく似てるな〜と感じます。あの雰囲気をイメージしながら読んで頂けたらと思います!

山の民の一年

まずはざっくりと、山小屋の一年をご紹介します。
4月 小屋開けの季節。稜線はまだまだ冬の装いで、ひたすら雪かきをする日々を送ります。

雪の塊の中から小屋の入り口を掘り出すところからはじまる。

小屋開け名物「アナ雪なトイレ」。

5〜6月 ハイシーズンに向けて準備をする季節。ふとんを干したり、冬の間に傷んだ部分の補修をしたり。
※6月に小屋開けをする小屋も多い。

7月 みるみる雪が溶け、冬山の装備がなくても山頂まで登れるようになります。海の日を皮切りにシーズン最盛期が始まり、仕事も遊びも大忙し! 花を楽しんだり、ペルセウス座流星群をはじめとした天体イベントを楽しんだり、一番賑やかな季節です。

雪解けと共に一面に花が咲き、山は短い夏を迎える。

8月 お盆を過ぎてトウヤクリンドウが咲くと花の季節が終わり、ぽっかり人が来なくなります。

9月 ゆっくりできるのも束の間、紅葉がはじまると山は賑わいを取り戻します。連休はハイシーズン並みの忙しさ。

小屋の周りの紅葉。チングルマやウラシマツツジ、ナナカマドが赤く染まる。

10月 水が凍り、雪が降りはじめます。雪に閉じ込められる前に、小屋閉め作業を行います。冬の間は豪雪と強風にさらされるため、窓をパネルで覆い、小屋中につっかえ棒をわたして補強します。越冬の準備を終えるとスタッフも街に戻り、山は冬の眠りにつきます。

山の民のごはん事情

山小屋の生活物資は、ヘリコプターでやってきます。

Screenshot

数週間おきに新鮮な野菜を運んでくれるヘリはみんなのヒーロー。腐りやすいトマトやきゅうり、果物は宝石のような存在!

この立地ゆえ食材はかなり限られていますが、グルメで旅好きなスタッフが知恵を絞り、国際色豊かな食卓を作り上げてくれます。
第1回で紹介したウハーとペリメニにはじまり、台湾のジーローハン、四川の水煮牛肉、ネパール式ダルバート、キルギスのキビ・そばの実ごはんなどなど、ここが山であることを忘れてしまいます。

台湾出身、シェフのスタッフが作ったジーローハン。うまいい、、、!

ジンブーが効いた本格ダール。

水煮牛肉のための辣油。

山の民の楽しみ

普段は4:00前には朝ごはんの準備を開始し、21:00の消灯まで仕事に追われていますが、客足が落ち着いている日にはまとまった休憩をとることもできます。そんな時は近くの山まで散歩をしたり、「部活」に勤しんだりして余暇を楽しみます。

ー部活とは?
ここは娯楽の限られた高山帯。誰かがおもしろそうなことをしていると、あっという間にみんなに伝染し、いつの間にか一大ブームとなります。そんな風に自然発生した、歴代の「部活」を紹介します。

⚫︎太極拳部

青空演舞の様子。

⚫︎けん玉部

日々研鑽を積む部員たち。

各々のマイけん玉置き場。壮観である。

⚫︎ポーカー部

テキサスホールデムを楽しむ様子。

⚫︎編み物部

編み物の他、刺繍やダーニングなどもブームを起こした。

⚫︎コーヒー部

スペシャリティーコーヒーを真剣に味わう部活。各々がmyお点前セットを持ち寄り、推しの豆をこだわりの方法で淹れ、毎朝5〜6杯のコーヒーをテイスティングする。業務が辛くなると、コーヒー豆を見て心を癒す酔狂な部員もいた。

myミル集合の図。photo by Eriko Nemoto

青空のテイスティング会。

⚫︎ラジオ体操部

正しいフォームで第二まで遂行する。津軽弁やスワヒリ語、ウチナーグチなど、様々なバージョンで楽しんだ。

⚫︎絵しりとり部

いかにニッチなラインを攻めていくかを楽しむしりとり。息の長いブームとなった。

⚫︎卓球部

文字通りのテーブルテニス。経年変化で歪んだテーブルをどう攻略するかが鍵である。鍋敷きをラケットとしてトーナメントを勝ち上がる猛者もいた。

山の仕事は実働時間が長くてハードですが、その分(?)体を使ってタフに遊ぶ方々が多いです。シーズン最盛期は仕事でヘロヘロになりますが、さらにけちょんけちょんになるまで笑って楽しむので、大変よく眠れます。食べる、働く、遊ぶ、寝るというサイクルを繰り返すうちに、「人生って、このくらいシンプルでいいはずだよな?」という思いがよぎり、下界に戻るのが辛くなったりします。

プロフィール

Yuri Iwamoto

いわもと・ゆり|1993年、埼玉県生まれ。富山県在住。ガラス作家をしながら、夏は北アルプスの山小屋で暮らす。あまりガラスを飼い慣らしすぎないことがモットー。趣味は山菜採りやきのこ狩り。

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