TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#4】教員にはならなかったけれど

執筆:上垣皓太朗(フジテレビアナウンサー)

2025年10月6日

フジテレビアナウンサーになって、1年半が過ぎた。

大学で国語と地理歴史の教員免許を取得したものの、教職には就かなかった私は、ペーパードライバーよろしく、ペーパーティーチャーのひとり。

とはいえ、教職課程のころの気持ちを忘れてはいけないと、ときどき思う。

大学4年のとき、教育実習の現場にて

秋や冬には、とっぷりと日が暮れてから授業を受けた。

遅い時間に設定された授業が多かったのは、大阪の高校に勤める現役教員の先生が、放課後に大学まで教えにくる必要があったからだ。元教員も含めて、地域の学校現場を知る人たちからたくさん学んだ。ときどき大学を飛び出して、学校や研究集会にも行った。

先生たちの経験からくるアイデアは、どれも聞いていておもしろかった。

たとえば、「生徒を指名するとき、自分と対角線上にいる生徒を当てる」。

教壇に立つと、すぐに目が合う1列目の生徒と話をしてしまいがちだが、お互いの声が小さくなって、遠くの生徒には聞こえない。逆に、遠くの生徒を当ててあげれば、教室全体を巻き込んだ会話になる。ときには教壇から移動して、当てた生徒とあえて距離をとる。

教員も、教室という舞台に立つパフォーマーなのだ。

地域活動の流れで小学生キャンプにも同行

遠足の下見(※「実踏」と呼ぶことも)の話も忘れられない。

遠足で行く砂浜を事前に歩いた先生には、お調子者の生徒が波打ち際ではしゃぎだす様子が目に浮かぶ。当日それを注意した流れで、担任の自分も海につかって、クラスがひと盛り上がり・・・とここまで予想して、替えの海水パンツを1枚持っていったという。遠足をクラスづくりの重要なステップに位置づけていた先生らしい話だった。

ほかにも、先生たちの「学校のお悩み対処法」は小ネタ連発。

「授業開始のチャイムが鳴ったのにわいわいがやがや、先生の話を聞いてくれない。どうする?」

「まずは色塗り作業をさせる」
「だまって板書を始めるのもあり」
「みんなの目をひく『モノ』教材をもってきて、見せる」

まずは身体を授業モードに切り替えてもらうために、先生たちが汗をかく。

私は、先生たちのほうが生徒に近づこうとすることに感銘を受けていた。私にはそんな発想すらなかった。勉強するもしないも自己責任・・・という考えを、どこかで当たり前だと思っていたから。

「生徒を寝かさない授業って?」
「生徒にプリントをなくさせない裏ワザは?」
「朝いつも遅刻してくる生徒にかける一番いい言葉は?」

そんなの生徒が悪いよ、先生のほうから配慮することじゃない、と思われるだろうか? それとも?

先生たちが勤めてきた中には、学習意欲が乏しく、小・中学校の内容もあやふやな生徒ばかりという高校もある。教育困難校では、相対的貧困に苦しんでいたり、家庭が安全な場所でなかったりする生徒も少なくない。

そんな生徒に向き合う手数を、地域の中で、教員という集団が編み上げてきた。学校での行動を生徒の責任に帰すばかりではなくて、その背景に何があるのかを見立て、わけを知り、ともに突破口を探そうとしてきた先生がいる。

教職学生は、みんなして打ちのめされていた。たいてい、自分自身は、環境に恵まれながら、出された問題に答えるのが得意なタイプに育ってきた人たちだったからだ。どうすればそんな自分が、一人の人間としてさまざまな子どもたちと向き合えるのかという重い問いを、突きつけられることになった。

でも空気は重くなかった。むしろ、部活のような雰囲気で熱い議論をかわした。キンモクセイが香る夜道を、みんなで帰った。

そのときの仲間の中には、いまや学校で先生になった人も、これから先生になる人も、教育産業で働いている人もいる。

自分に置き換えてみると、教員免許をとったからといって、すぐに思い描く「先生」になれるわけではないんだろうな、と想像できる。みんな試行錯誤しながら、一人の人間として、子どもの世界と相対しているはずだ。そんな現場に臨む仲間を、心から尊敬している。

私は教員にはならなかった。教員にはならなかったけれど、子どもたちに対する責任を負っていることは変わらない。アナウンサーという立場だからできることも、きっとあるはずだ。そう思いながら、仕事をしている。

『かまいまち』収録現場にて

プロフィール

上垣皓太朗

うえがき・こうたろう|フジテレビアナウンサー。2001年兵庫県出身。2024年にフジテレビに入社し、現在は「めざましテレビ」「めざましどようび」「かまいまち」などを担当するほか、競馬などの実況でも活躍。趣味は銭湯での長風呂、AMラジオ視聴。特技は地形図を見ながら街を歩くこと。

Official Website
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