1976-1983 昭和アスレチックブーム期の忘れ去られたファッションを発掘! ――トロピカル松村
ザ・ワスレチックボーイ/序章 忘れられた「ワスレチック」の世界へ。
logo design: Katsuyoshi Mawatari
photo: Yuki Sonoyama
text: Toromatsu
edit: Kosuke Ide
2025年11月19日
「ワスレチック」とは何か? それは本誌『POPEYE』創刊(1976年)からDCブランドブーム到来(1983年)ごろまでの昭和後期に日本の若者たちを魅了した、アメリカ西海岸発のスポーツ/アスレチック文化に強力に影響を受けたファッションスタイルを指す、「POPEYE Web」チームの雑談から生まれた造語。あれから半世紀……今ではすっかり“ワスレ”去られてしまった、昭“和”のユースカルチャー、「ワスレチック」スタイルの全貌を、この道歩いて20年のライター・トロピカル松村が語り尽くすシリーズ連載。
「ヒッピー」から「アスレチック」へ。若者文化の大転換の時代。
「アスレチック」という言葉はもちろん英語の「Athletic」を由来とし、「体育」や「運動競技」を意味する。「健康で活発」とか「スポーツマンらしい」なんてイメージが浮かんでくるが、1970年代後半~80年代前半の日本は、まさしくそんな志向を持つ若者で溢れかえっていた。具体的にはサーフィンにテニス、スキーにジョギング、フライングディスク(フリスビー)やサイクリング、バックパッキングなどなど……実際こうしたアクティビティ・スポーツがどれほどの人気だったのかは、当時の若者向けファッション誌を片っ端から見て行くとよくわかる。
そのブームの先駆けとなったのは、やはり76年の『POPEYE』創刊号のアメリカ西海岸特集だ。LAをはじめとした街で元気に遊ぶジョガー、スケーター、パラグライダーたちを取り上げ、彼らのカルチャーとスタイルを大々的に紹介し、日本の高校生や大学生の読者たちに衝撃を与えた。60年代末〜70年代初頭の若者文化と言えば、ロック、反戦(ベトナム戦争)、アングラ、エロ、ヒッピー、ドラッグといったもので、そこにはどこか不健康なイメージがつきまとっていたが、『POPEYE』の登場はそうした文化を完全に過去のものにし、「健康的なアメリカ」こそが若者たちのトレンドとなった。
1976年「POPEYE」創刊号
同誌は以後も77年~80年初頭にかけ、サーフボーイ、テニスボーイ、スキーボーイなんてタイトルで別冊を次々に発売。60年代からアイビーファッションを打ち出していた『MEN’S CLUB』でも70年代後半にはアスレチックなスタイリングが度々カバーを飾り、特集を組んだ。『Fine』や『JJ』といった女性誌もテニス、サーフィン、スキー推し。アウトドア派な雑誌は増すばかりで、お馴染み『BE-PAL』なんかもこの頃に誕生した。ファッション誌だけでなく『少年ジャンプ』でも漫画「テニスボーイ」が人気となり、ワーゲンバスとサーファーのイラストがカバーになっていたほど。世間のアスレチック志向が非常に強かったことが容易に汲み取れる。
ユーミンもピンク・レディーもアスレチックだった!
アスレチックのムーブメントは、ファッションのみならず音楽シーンにも影響を与えていた。荒井由実『天気雨』(1976)の歌詞には茅ヶ崎のサーフショップ「ゴッデス」が登場し、大貫妙子『サマーコネクション』(1977)では本人がスケートボードに乗っている写真をレコードジャケットに起用。79年にはピンク・レディーがサーフィンを題材に歌った13枚目のシングル「波乗りパイレーツ」が、週間オリコン4位に。80年以後は今でいう「シティポップ」的サウンドが急増。ビーチガール感をウリにした女性がさらに増え、男性も山下達郎に、大瀧詠一などなど。多くの歌手がトロピカルテイストで人気を博していった。加えて永井博に、鈴木英人といったイラストレーターらが手掛けたトロピカルなレコードジャケットも拍車をかけ、若者は無意識にアスレチック志向を植えつけられていたのだ。
コロナ禍を経た現代にも健康やアクティブを求める人は増えたと思うが、令和の今、あいみょんが歌詞にサーフショップの名前を入れ、Lisaがスケートボードに乗り、ADOがサーフィンの歌でヒットを飛ばす、なんてことはいささか想像もつかない。しかしこの昭和の時代では、メジャーな人気の歌姫たちが海やスポーツを歌う、というのが何ら不思議じゃなく、何ならありがちなことだったわけである。
映画も忘れてはいけない。77年にはベースボールムービー『がんばれ、ベアーズ』にスケートボード乗りの少年たちが登場する『ボーイズ・ボーイズ ケニーと仲間たち』が上陸。78年はディスコ映画の金字塔『サタデーナイトフィーバー』とサーフィン映画『ビッグウェンズデー』が大ブームに。
その影響もあってか、ここ日本ではブラックミュージックとともにAORやウエストコーストサウンドを流す“サーファーディスコ”と呼ばれる、アメリカンな海っぽさを取り入れたディスコも続々と登場。誰もがアロハシャツでディスコに繰り出し、サーフィンをしないのにサーファーの格好をした連中を揶揄する“オカサーファー”という言葉も生まれたほど。ジョギングパンツとローラースケートでダンスフロアを駆ける文化なんかも到来した。テニスジャージに、ベースボールジャンパー、スキーダウンだって街で大活躍。スポーツやライフスタイルが、ファッションと見事にクロスオーバーしていったのだ。
1979年「POPEYE」67号。テニスウェアがディスコなどのナイトシーンでも見られた。
1979年「POPEYE」増刊第1集。コットンアロハ、裏地使いのプルオーバーアロハが大流行。
1980年「POPEYE」増刊第5集。タキシードにスキーダウン!? 当時のポパイ流ワスレチックスタイルだ。
1980年「POPEYE」76号。メジャーリーグジャンパーも人気アイテムのひとつ。カラーペインターも。
1980年「POPEYE」85号。スウェットパンツの上にジョギパン。裾に靴下をかぶせると更にGOOD。
1977年「POPEYE」6号。初期号でもすでに見られるジョギパンの着こなし。上級ワスレチックだ。
今こそ掘り起こそう、あの頃のワスレチックボーイのスタイルを。
本企画では、そんな時代に生まれた流行のファッションスタイルを、さらに詳しく、一年限定の連載(月一、計12回)で紹介していく。記事内で使用するアイテムはほぼすべて執筆者である僕、トロピカル松村が約20年かけコツコツ集めてきた私物で構成する。
そもそも僕がこの「ワスレチック」時代に興味を抱いたのは、17歳だった2005年頃のこと。当時、レトロサーフファッションみたいなのが薄くリバイバルしていて、少しずつ取り入れていくうちにハマりすぎてしまったという感じだ。以後、1970〜80年代当時に青春時代を過ごしたセンパイたちにたくさん接触したり、雑誌やレコードなどの資料を掘ったりする日々が続いてきたわけだが、なぜ20年も飽きることなくこの文化を追い続けているのか。理由はいくつかあるが、何より大きいのは、これだけ社会を席巻した一大ムーブメントだったにも関わらず、すっかり「忘れ去られている」ことだ。事実、シティポップが世界中で流行っていても、同時代のファッションシーンについてはほとんどの人が無関心であり頓着していない。
また憧れだったアメリカの文化を日本の風土に合う形で解釈し変形させていったことで、この国ならではのカルチャーやファッションシーンが生まれたという事実も魅力のひとつ。いわゆる「ドメスティックブランド」が増え始めたのもこの当時で、いわば「日本=ファッション大国」という今の我が国のイメージに至る原点の時代、というところにもグッときていたりする。あとはもちろん、ロマンチックなところや、ノスタルジックなところにも惹かれている。
とまあ、いろいろ特筆すべきところはあるが、とにかく意外と軽視されているこの時代のものを、もっと多くのみんなにも知ってもらいたいわけ。このカルチャーをまとめるのは、20年集め続けてきた自分にしかできないと思っているし、これをせずして自分の人生に幕を閉じるわけにはいかない。世界中からかつての日本のファッションが注目されている今こそ、掘り起こそう。あの頃のワスレチックボーイのスタイルを!
つづく……
Profile
トロピカル松村
とろぴかる・まつむら|1988年、兵庫県生まれ。編集ライター。サーフィン専門誌の編集者を経てフリーランスに。サーフィンを始めたときから約20年間、当時のサーフボードで波に乗り続けている。昭和の西海岸ブーム(ワスレチック)期にフォーカスした私設ミュージアム『さんかくなみ』を二子新地で営んでいたが、2025年7月に閉館。ジーンズ&スポーツを掲げるブランド『CRT』のディレクターでもあり、著書に『ボクのニッポンサーフィンサウンド』がある。
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