TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#1】縞メノウの魅力

執筆:山田英春

2025年9月10日

メキシコ、チワワ州産の縞メノウ。チワワ州は色鮮やかな縞メノウが採れることで有名です。

 「石」という言葉を聞いてどんなイメージを思い浮かべますか。道ばたや河原に転がっている彩りのない灰色の塊でしょうか。建築や内装の仕事をしている方にとっては、大理石や御影石かもしれません。ジュエリー関係の方であれば、きっと美しくカットされた宝石でしょう。また最近は鉱物標本の愛好家が増えていますので、水晶や蛍石の結晶を思い浮かべる方もいると思います。

 私は「石」というと、もっぱら浮かんでくるのはその模様です。それも石を切ったときに現れる石の内側の模様です。石が見せるさまざまな模様に魅かれ、これまでいろんな石をコレクションしてきました。

 そんなニッチで狭い領域なの? とお思いになるかもしれません。ただ、石の中には千変万化の色と形のバリエーションがあります。地球上の造形のさまざまなエッセンスが詰まっていると言っても決して言いすぎではありません。私が出会った、ユニークで美しく面白い模様の石を4回にわたってご紹介したいと思います。

 模様の美しい石の代表格がメノウ(アゲート)です。メノウは成分としては水晶とほぼ同じなのですが、姿は全く異なります。特徴的なのが、塊の中に細かい層が重なっている縞メノウです。原石の外見は単なる無色の岩の塊ですが、切ると透明感のある美しい縞模様が現れます。日本を含む世界のさまざまな場所で採れますが、産地によっては極彩色に色づいたものがあり、特にメキシコ北部産、アルゼンチン産のものは有名で、多くの愛好家がいます。

アルゼンチン、パタゴニア産のメノウの原石。外見からは中がどうなっているのか、ほとんどわかりません。

パタゴニア産のメノウを半分に切ったもの。鮮やかな色の縞模様が現れます。

 縞模様は見る者を幻惑するような独特な視覚効果を生みます。メノウの縞模様も見つめていると縞が動いているように見えるものがあります。そうした効果からか、中世ヨーロッパでは縞模様は人を惑わす悪しき模様と考えられていたそうです。反対に1960年代後半にはアメリカを中心としてカラフルな縞模様が生む視覚効果を最大限に利用したサイケデリック・アートが大流行しました。縞メノウは自然が生んだサイケデリック・アートといえます。その魅力が広く知られるようになり、世界各地に愛好家を生んでいきました。私もメノウの縞模様にすっかり幻惑されてしまった者の一人なのです。

メキシコ、チワワ州産の縞メノウ。大きな目玉模様が入っています。

メキシコ、チワワ州産の「クレージー・レース・アゲート」。レース模様のような縞メノウをレース・アゲートと呼びますが、この産地のものは特に複雑怪奇な模様を見せるので、「クレージー」の名が付いています。

アルゼンチン、パタゴニア産の縞メノウ。緻密な縞模様と鮮やかな色が特徴です。

ボツワナの縞メノウ。この産地は寒色系の縞模様が特徴です。

プロフィール

山田英春

やまだ・ひではる|書籍の装丁を専門にするデザイナー。石の模様の美しさ、面白さに魅かれ、メノウやジャスパーなどの石の蒐集を続けている。
本業の傍ら、世界各地の古代遺跡・先史時代の壁画の撮影をしている。
著書・編書に『巨石──イギリス・アイルランドの古代を歩く』(早川書房、2006年)、『不思議で美しい石の図鑑』(創元社、2012年)、『石の卵──たくさんのふしぎ傑作選』(福音館書店、2014年)、『インサイド・ザ・ストーン』(創元社、2015年)、『奇妙で美しい石の世界』(ちくま新書、2017年)、『ストーンヘンジ』(筑摩選書、2023年)、『増補愛蔵版 美しいアンティーク鉱物画の本』(創元社、2023年)などがある。

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