TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#4】映画館のある街で 日本篇

執筆:内田洋介

2025年9月1日

トルコ・ジョージア・インドを旅したり、アメリカ・ルーマニア・ウクライナの映画館について寄稿してもらったり。遠くに行って、やっとわかったのは、日本ほど映画館に恵まれた国はそうそうないということだった。

撮影:児玉浩宜

いや……そんなことは最初からわかりきっていたさ。でも、身をもって実感しなければ、本当の意味では理解できないような気がしていたのかもしれない。
日本の映画館がいかに豊かであるかを実感したことで、それを営むひとたちと言葉を交わしてみたいと思った。

出演:上川周作 撮影:堀口拓也

まず思い浮かんだのは、鳥取の湯梨浜にあるjig theaterだ。柴田修兵さんと三宅優子さんが2021年に鳥取の湯梨浜にオープンしたミニシアター。湖畔の廃校を改装した映画館なんて、それこそ映画みたいじゃん。
じつはjig theaterのことは前々から気になっていた。2023年の『POPEYE』の映画特集に小さく載っていたこと。湯梨浜には取材で何度か訪れたことがあり、町のハブ的存在の書店、汽水空港のモリテツヤさんが猛プッシュしていたこと。

思い返せば、最初に湯梨浜へ行ったとき、モリさんが言っていたな。おもしろい個人店が増えていて、楽しい町に変わっていきそうだと。かつてのポートランドがそうであったように。あとはパン店や映画館ができれば完璧だと。
そうだ、モリさんにjig theaterのふたりをインタビューをしてもらおう。極私的な経験をきっかけに生まれる誌面こそ、わざわざ個人でつくる雑誌にふさわしいはずだから。

「是非jigの二人にインタビューして欲しいです!」「モリテツヤのフィルターをかけるよりも、直接二人の言葉を書いたほうが面白い雑誌になるような気がしますが、どう思いますか?」
ところが、依頼に対するモリさんの返信が上記である。jig theaterなら、ぼくが直接インタビューしたものを読んでみたいという。見透かされていたのかな……山陰は遠いから。Zoomに慣らされた編集者として、零細な旅雑誌であることを言い訳に、自分が鳥取へ行かずに済むような方法を考えていたことは否めなかった。

でも、最終的にjig theaterを訪ねるにしたのは、編集者としての生真面目さでもなんでもない。
もうひとつのインタビューで伊豆の金星シネマを訪れたとき、館長の梅澤舞佳さんの口から偶然、その名前が出てきたのだ。自分と違うことをやっている、気になるミニシアターとして。

やっぱり遠くに行かなくちゃ。極私的な経験をきっかけに生まれる誌面こそ、わざわざ個人でつくる雑誌にふさわしいはずだから。

プロフィール

内田洋介

うちだ・ようすけ|1991年、埼玉県生まれ。フリーランスとして編集・執筆活動をするかたわら、2015年に独立系旅雑誌『LOCKET』を創刊。7冊目となる最新号では、映画館を特集。インド、ルーマニア、トルコ、ウクライナ、ハワイなどで撮り下ろされた、世界各地の映画館が収録されている。全国170軒の取り扱い店舗、およびオンラインサイトで入手可能。

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