TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#2】映画館のある街で ジョージア篇

執筆:内田洋介

2025年8月18日

トルコの旅で、第7号を映画館特集にする手応えはつかめた。
でも、帰国までにもうひと企画は取材をしておきたい。なんせ、ひとり編集部の零細な旅雑誌。航空券の出費を考えたら、海外取材の機会なんて限られている。

まず考えたのはモロッコだ。「Cinéma Rif」という映画館が、表紙にだってできそうなたたずまいをしていた。
イスタンブールからスペインに飛び、ジブラルタル海峡を渡り、モロッコへ映画を観に行く。Romanticが止まらないよね?

ただ、3週間強の旅程にそれを加えるのは、いささか欲張りかな。追加取材に捻出できる日数は限られている。ちょうどいいのがトルコの隣国ジョージアだった。
10年前までグルジアと呼ばれていたジョージアは、トルコ同様に「文明の十字路」と称され、日本人旅行者からの人気も上昇中。コーカサスなんていう旅情をそそる地域名からして、一度は行きたいと願っていた。

ところで、旅雑誌をつくるうえで悩ましいのが、事前のリサーチ具合である。このときも、首都トビリシにマイクロシアターがあるらしいことまでは把握。シネコンやミニシアターはトルコで訪問済みだから、特集のバランスを考えても理想的に思えた。
でも、交通手段や宿泊先は事前に押さえず、SNSも極力は見ないでいた。つくっているのはガイドブックじゃない。情報をなぞるように確認していくだけでは、紀行文なんて書けやしまい。これが仕事だったらそうもいかないけど、残念極まりないことに、まったくもって仕事じゃない。

そんなロンサム気取りは、ジョージアに入国するなり打ち砕かれた。トルコから陸路で国境を越えた夜、トビリシに行くためのバスターミナルが見当たらない。バス会社の窓口を見つけても席が空いていない。右往左往するうちにタクシー代がかさんでいく。
どうにか夜行の乗合バスに乗せてもらったはいいものの、到着はド深夜だった。宿はどこも閉まっている時間帯。寒いし、雨だし、野犬に囲まれるし……ちゃんと調べて予約しておけばよかったよ。

まあ、首都までの移動なんて、誌面とは関係ないや。初めての国で、マイクロシアターを訪ね、映画に感動する。これさえかなえば完璧なんだから。
そんな旅雑誌のシナリオもまた、やっと訪れた「Cinemaholics Tbilisi」でくずされた。上映していたのは、日本を出る前に観たばかりの映画。日本語字幕があっても全然ハマれなかった映画。
まるでロンサム気取りの未熟さを映し返すかのように、タイトルは「哀れなるものたち」だった。

プロフィール

内田洋介

うちだ・ようすけ|1991年、埼玉県生まれ。フリーランスとして編集・執筆活動をするかたわら、2015年に独立系旅雑誌『LOCKET』を創刊。7冊目となる最新号では、映画館を特集。インド、ルーマニア、トルコ、ウクライナ、ハワイなどで撮り下ろされた、世界各地の映画館が収録されている。全国170軒の取り扱い店舗、およびオンラインサイトで入手可能。

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